検証・東京2020(5)「観客」…選手の家族はいなかった競歩、マラソンの沿道

スポーツ報知
女子20キロ競歩を一目見ようと大勢の観客が立ち止まった

 コロナ禍で1年延期した東京五輪が閉幕。スポーツ報知では、記者コラムでテーマ別に検証する。第5回は「観客」。

 さまざまなドラマに彩られた東京五輪の終盤は、会場変更で東京より涼しくなるはずだった札幌で競歩、マラソンを取材した。全日程を終えた翌日。帰京する前に「せっかくだから」とマラソンコースの一部を早朝に走った。多くの人が思い思いのペースでランニングしており、一人の市民ランナーに、「昨日はすごいレースでしたね。沿道で観戦したんですか?」と声をかけた。

 「家で見ていました。本当は手の届く距離でキプチョゲ選手や大迫選手を応援したかったけど…。走るのが好きだからこそ、我慢しなきゃいけないかなって」

 観戦自粛を呼びかけて行われたロード競技だったが、多くの人が沿道に詰めかけたのも事実だ。5月のテスト大会と比べて警備員は増えたものの、「沿道に立ち止まらないでください!」という注意を促す声は、レースが進むにつれて意味をなさなくなっていった。人気競技のマラソンはもちろん、平日午後4時30分スタートの男女20キロ競歩には、仕事帰りのサラリーマンが立ち寄る姿が目立った。

 札幌以外でも、無観客で行われたBMXフリースタイル・パークやスケートボードでは、会場の有明アーバンパークにほど近い橋から競技がほぼ丸見え。五輪の雰囲気を味わおうと、多くの人が訪れていた。

 大会前、あるマラソン選手の家族を取材する機会があった。札幌での観戦について尋ねると、複雑な心境を話してくれた。

 「もちろん、見に行きたいというのが本音。でも、もしテレビに映り込んだり、SNSとかで拡散されたりしたらと思うと…。本人に迷惑をかけられないから、家にいるしかない」

 沿道での応援を悪だと断罪するつもりはない。観戦自粛という“グレー”な対応もまた、交通規制の難しさから仕方がないということも理解できる。一方で、家族をはじめとする一部の関係者が、なんとか現場で声援を送ることはできなかったかと考えてしまう。

 沿道からの声援は、競技時間が長くなる種目ほど選手のエネルギーになる。もちろん、今回もそうだっただろう。選手の栄光と挫折、汗と涙、努力と苦悩の日々を知る身近な人からの声というのは、特別な力が宿っているはずだ。

 観戦自粛とした以上、厳しい言い方をすれば「赤の他人」が沿道にあふれるのは自明の理。本当に声をかけたい人や選手が雄姿を見せたい人が不利益を被るのは、誰も望まないはずだ。家族席を設けるなど、そんな人たちを“特別扱い”する勇気が足りなかったのかもしれない。

(太田 涼)

 ◆東京五輪の地域別の観客有無

 ▼有観客(計4万3300人)宮城県=1万9300人、静岡県=2万600人、茨城県=3400人(地元の小中学生らを対象とした学校連携観戦プログラム)

 ▼無観客 東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、福島県

 ▼観戦自粛呼びかけ 北海道(陸上ロード競技)、静岡県(自転車ロードレース)

 ◆太田 涼(おおた・りょう)1991年7月8日、福島市生まれ。30歳。順大4年時には駅伝主務。2014年入社後、編成部レイアウト担当を経て18年から陸上、BMX、箱根駅伝などを担当。今大会で印象に残ったのは男子マラソンで「100点満点」と有終レースで言い切った大迫のうれし涙。

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