◆東京五輪 女子自転車・オムニアム スクラッチ(8日・伊豆ベロドローム)
トラック種目女子オムニアムで初出場の梶原悠未(24)=筑波大大学院=が銀メダルを獲得した。自転車で日本女子が表彰台に立つのは初めて。155センチと小柄な梶原が世界で戦える理由を自転車担当の宮下京香記者が「見た」。
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最終種目のポイントレースでゴールした梶原は、ゆっくり観客席の母・有里さん(49)のもとに自転車を走らせ、右手で握手を交わした。「銀メダルになってしまってごめん…」。これまで練習、身の回りの手伝いと全身全霊で支えてくれた母に申し訳ない気持ちがあふれた。母の口から出たのは「おめでとう」。祝福の言葉に涙があふれた。
静岡開催のため数少ない有観客となった会場。今大会の自転車競技では日本勢唯一のメダリストとなり、温かい拍手を浴びると、バイクを両手で持ち上げて、笑顔で応援に感謝した。
身長155センチ。177センチで金メダルのバレンテ、176センチで銅のウィルトと並ぶと、体の小ささが良く分かる。昨年、世界一の称号「アルカンシェル」を手にした小柄な女王の武器は「スピード」。日本代表のクレイグ・グリフィン・コーチは「ポケット・ロケット」と、その爆発力を評する。
アタックスピードの源はペダルを踏み込む力にある。下半身、特にハムストリング(太もも裏)の筋肥大を図ってきた。最も高強度なのは、バーベルを肩に担いで下半身に最大110キロの負荷をかけてスクワットを5回。太もも回りは61センチになった。昨年は「自宅でも」とウェートリフティングの機材を購入。「重いギアが踏めて速度が出るようになった」と200メートルの距離で13秒9。「短距離選手とどっこい」(母)と中距離選手としては驚きの速さだ。
“小さい”は武器にもなる。この日の第1種目・スクラッチでは五輪2連覇のケニーの後ろにピタリ。海外の大柄選手の後ろに位置取ると、マークをしつつ、空気抵抗を減らせる。「体力を温存できる」と勝負どころでエネルギーをつぎ込むことを可能にさせる。
“秘策”もはまった。大学の卒論のテーマはこの日、2位と健闘した第3種目のエリミネーションだった。自身やライバルのレース映像を「1000回以上」見て研究し、昨年の世界戦で3位に。だが五輪に向けて、新たに16年リオ五輪男子金メダルのビビアーニ(イタリア)の戦術を取り入れた。「これまでは集団の1、2番手をローテーションしたが、今回は外に位置取りし体力温存をメインにした」。最終種目・ポイントレースで落車しユニホームも破れたが、冷静に2位を守った。
自転車で日本女子初のメダル獲得に「うれしい」と言いつつ、「銀メダルは率直に、とっても悔しい」と本音が口をついた。「次のパリ五輪で金メダルを狙いたい」。梶原の視線は3年後、表彰台のてっぺんへと向けられていた。(自転車担当・宮下 京香)
◆筑波大ゼミ“先輩”安藤 研究続け「新しい道応援」
サッカー女子で11年ドイツW杯金メダル、12年ロンドン五輪銀メダルのFW安藤梢(39)=三菱重工浦和=が、親交のある梶原の素顔を語った。梶原が筑波大に入学した16年春に知り合い、同大の西嶋尚彦教授の研究室で仲を深めた。「結構長く語り合います。アスリート同士、競技や練習の話ばかり。『ガッチリしたね。どんな練習しているの?』と私がいつも質問攻め」と笑った。
安藤は今春から同大で助教となり、サッカー選手と両立している。「悠未も競技と並行して研究を続けたいと聞いた。私の場合は周囲の理解があってできたが、女子アスリートの新しい道ができたらうれしい。悠未が挑戦するなら応援したい」
梶原は24年パリ五輪で金メダルを目指す。「自転車競技を世に広めるためにも頑張ってもらいたい」と、さらなる飛躍を願った。