大迫傑、有終レースは6位 負けず嫌いが「100点満点」と言い切った涙の理由…担当記者が見た

スポーツ報知
37キロ付近、険しい表情で前を追う大迫(代表撮影)

◆東京五輪 陸上 男子マラソン(8日、札幌大通公園)

 男子マラソンで現役ラストレースに挑んだ大迫傑(30)=ナイキ=が、五輪では日本男子最速の2時間10分41秒で6位入賞を果たした。日本人では12年ロンドン五輪6位の中本健太郎以来、2大会ぶりの入賞。負けず嫌いな男がメダルに届かずも「100点満点」と言い切った理由を、陸上担当の太田涼記者が見た。中村匠吾(28)=富士通=は2時間22分23秒で62位、服部勇馬(27)=トヨタ自動車=は2時間30分8秒で73位。世界記録保持者のE・キプチョゲ(ケニア)が2時間8分38秒で2連覇した。(曇り、気温26度、湿度80%=スタート時)

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 笑うように帰ってきた。ゴール手前、まっすぐな残り400メートル。大迫は2~5位集団の背中を必死で追った。「これが最後と思って」。31・5キロ付近でスパートしたキプチョゲ(ケニア)に対応できなかったが、粘りの単独走で逆襲。最後は順位を上げられなかったが、沿道の声援に右へ左へ手を挙げて応え、6位でフィニッシュした。終盤は体が右に傾き、差し込みと呼ばれる腹痛にも耐え切った前日本記録保持者。死力を尽くし、力なく両手を膝について立ち止まった。

 耳を疑った。「100点満点の頑張り。やり切ったというのが全て」。うれし涙を浮かべてインタビューに答えていた大迫だが、元来、超がつくほどの負けず嫌い。銭湯でも番号が「1」のロッカーにこだわるほど。現役ラストにすると退路を断って挑んだ五輪で、表彰台に届かなかった。悔しくないはずがない―。そう思って取材エリアで待っていると、今まで見たことのない笑顔でやってきた。

 「メダルを期待してもらって、自分でもチャンスがあればと思ったが、そういうチャンスはなかった。自分の力を出し切れた。選手としての挑戦は、これで終わりです」

 満足げな表情に漂う充実感。こんな言葉を聞きたかったわけではないと、最初は思った。あまりの出来事に冷静になろうと思い、客観的な評価を聞こうと電話をかけた。ノーリツ陸上部前監督で“マラソン博士”と呼ばれる森岡芳彦さんだ。レース展開、インタビューでの言葉や表情。一通り伝えると、柔らかな声で一つ問題提起してくれた。

 「大迫君にとっての100点とはなんだろう」

 大迫史上、最高のレース。それは20年東京マラソンに他ならないだろう。中盤で先頭集団から脱落するも、30キロを過ぎ、こぼれる選手を単独走で拾って順位アップ。自身2度目の日本新記録を樹立した―。そこまで言いかけて、一つの答えに達した。そうか、あのレースと今回は大迫の“勝ちパターン”なんだ、と。

 「そういうことだろうね。私はそれを『型』と呼んでいる。型がないと、型破りなこともできないからね」

 力を温存して勝負どころに備える。主導権は譲るが、粘り抜く。順位や記録は気象、相手の調子で左右される。そこに満足感を求めることはやめて、純粋に自分自身と向き合い、理想をかなえた。その結果が6位入賞であって、きっとこれが1位でも20位でも、最下位でも笑顔だったのではないだろうか。ただ、最後の最後まで、常識に縛られない男であったのは間違いない。(長距離、マラソン担当・太田 涼)

 ◆大迫に聞く

 ―2位集団も見えていた。

 「追いかけるよりも、今の自分の100%を出し切りたいと思っていた。もちろん追いつけたらとも思ったが、まずは自分のリズムで、と」

 ―レースプランは。

 「特に考えてはいなくて、勝負自体は30キロ過ぎだろうと。そこまで力を使わずにどう対応するかだけ考えていた」

 ―右脇腹をおさえた。

 「ゴールを意識すると体がブレる。こればかりは痛くても走りきるしかない」

 ―涙は。

 「やりきったというのが大きい。この6位というのが、中村君や服部君、鈴木健吾君、吉田祐也君たち次の世代の最低ラインになる。マラソン王国としてのプライドを持って戦ってほしい」

 ―これから。

 「とりあえず、何も考えずゆっくりしたい。『次は自分が』と他の選手は思っているはずなので、手助けできる活動に挑戦したい」

 ◆大迫 傑(おおさこ・すぐる)1991年5月23日、東京・町田市生まれ。30歳。長野・佐久長聖高から早大進学。15年に米国へ拠点を移し、プロに転向。16年リオ五輪5000メートルと1万メートル代表。18年10月のシカゴで2時間5分50秒の日本新記録(当時)を樹立。20年東京マラソンの2時間5分29秒で再び更新。自己記録の3000メートル7分40秒09と5000メートル13分8秒40も日本記録。家族は妻と2女。

 〇…早大時代の大迫を指導し、現在は住友電工を率いる渡辺康幸監督(48)は「実力を出し切った。その結果が6位。それは大迫自身が分かっていると思います」と全力を尽くした男をたたえた。ゴール後、クールな大迫が男泣き。長野・佐久長聖高時代の恩師で、現在は東海大を率いる両角速監督(55)は「私には悔し涙にも見えましたね。本当に負けず嫌いな男なので」と、かつての教え子を思いやった。

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