東京五輪総括 感染増で公衆衛生学の観点では「大失敗」…日本医科大特任教授・北村義浩氏

スポーツ報知
北村義浩氏

 新型コロナウイルス流行に伴い、史上初めての1年延期を経て開催された東京五輪。日本勢のメダルラッシュなど選手の活躍は多くの人々の記憶に刻まれた。感染症学が専門の日本医科大特任教授・北村義浩氏(60)が、賛否両論あった中での開催を総括した。

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 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は「五輪開催は正しかった」と発言していましたが、公衆衛生学の観点だけで言うと「大失敗だった」と断言するしかありません。理由は単純で、感染者数が増えたからです。開会式当日は東京1359人、全国4225人だったのに、閉会式当日は東京4066人、全国1万4472人になっていますよね。

 「五輪と因果関係があるか分からないだろう」と言う方、おっしゃる通りです。今後数週間、数か月かけて分析しないと明確には分からない。ただ「8月上旬に5000人」という最悪の想定が、現実のものになってしまったことは事実(8月5日に5042人)。ワクチン接種率、デルタ株の拡大など想定された要素以外に存在したのは五輪です。山火事が発生した村で強行した盆踊りは、催しとしては成功だったかもしれない。ただ、山火事の延焼は続いている。村として「盆踊りは成功だった」と胸を張れるか、という話です。

 直接的な影響はまだ分かりませんが、間接的にはあったと考える方が自然です。緩みを生む「楽観バイアス」は確実にありました。旅行や宿泊のキャンセル率が過去の緊急事態宣言時と比べて非常に低いことなど象徴的です。盆踊りの太鼓囃子(ばやし)が聞こえてきたら「まあ盆踊りには行けないけど、どっか行こうか」と考える人もいるでしょう。

 期間中、選手やスタッフらの感染率は低かった。バブル方式が機能した部分はあるでしょう。ただ委託業者やボランティア、医療関係者は公共交通機関を用いました。マラソンや競歩会場で密になったこと、コロナ対策ルール集「プレーブック」の決定プロセス、あのCOCOAって何だったの?などといったことも含めて検証すべきことは多くあります。「Go Toトラベル」の時みたいにデータやエビデンスをウヤムヤにしてはいけない。「パンデミック下で世界最大の大会を開催してどうだったか」という貴重なデータはしっかり残さなくてはいけません。

 ◆北村 義浩(きたむら・よしひろ)1960年12月11日生まれ。60歳。東大医学部、同大大学院医学系研究科修了後、国立感染症研究所などを経て現職。

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