東京五輪空手女子形で銀メダルを獲得した清水希容(27)=ミキハウス=は過去2年、特注マウスピースを用いた呼吸法の改善に取り組んできた。5日の決勝では宿敵のサンドラ・サンチェス(スペイン)に敗れたものの、呼吸に寸分の乱れもない力強く美しい演武で魅了した。
ソフトボールの上野由岐子投手ら数々のトップアスリートの特注マウスピースを手掛ける日大松戸歯学部の鈴木浩司准教授によると、清水は2018年の世界選手権で敗れた際、審判が「呼吸音が大きい」と指摘していたことを知った。そして、鈴木准教授とともに空手独自の呼吸法「息吹」の土台からの改善に着手するようになった。
アスリートとしては特に望ましくない口呼吸になっていたものを鼻呼吸に直していくことがテーマ。鈴木准教授は「マイナスになっていたものをゼロに、そしてプラスに引き上げたら大きく変化すると思いました」と振り返る。
手段として選んだのは仏タングラボ社が特許を所有し、一部医療機関のみで取り扱っているマウスピース「タング・ライト・ポジショナー」を就寝時に装着すること。鼻呼吸をしやすくなるように舌の位置を矯正することを続け、睡眠中も向上のための時間になった。鈴木准教授は「1年間をかけて取り組みませんか、と聞いたら『ぜひ!』と即答してくれましたし、清水さんは本当に素晴らしい取り組みをしてくれました。ヨガも同時に導入したりして、呼吸を変えるための努力を全く惜しむことはなかったです」と振り返る。
開催が1年間延期になったことで、さらに清水の弱点は「ゼロ」に、そして「プラス」の美点になった。タングラボ社の日本法人は「呼吸はハイレベルなスポーツ選手だけでなく、全ての人に欠かせないテーマ。正しい舌の位置と機能を意識する大切さを知ってほしいです」とする。
僅差で敗れはしたものの、清水の演武は空手の形が持つ美しさを日本中へ、そして世界中へと伝えた。4分間の映像を詳細に見ると、一呼吸ごとに明確な理由と意志があるようにも感じられる。
会場の日本武道館で演武を見届けた鈴木准教授は「敗れてしまいましたけど、彼女の真面目で真摯な取り組みは本当に素晴らしかった。培ったことを素直に出した演武だったと思います」との言葉で称えた。(北野 新太)