名古屋市の河村たかし市長(72)が5日、表敬訪問を受けた東京五輪ソフトボール日本代表・後藤希友(みう、20)=トヨタ自動車=の金メダルをかじったことについて「長年の努力の結晶である金メダルを汚す行為。心からおわびします」と陳謝した。4日に訪問の様子が報じられると同時に、会員制交流サイト(SNS)で「信じられない」などの声が上がったほか、メダリストからも批判が続出。市にも苦情が殺到していた。
激闘の末に後藤が手にした金メダルに、本人の了解も得ずにいきなりかじりついた河村氏。SNS上の批判を受け、4日に「最大の愛情表現だった。迷惑をかけているのであれば、ごめんなさい」とのコメントを出したが、“炎上”は収まらず謝罪に追い込まれた。
後藤が所属するトヨタ自動車はこの日、「あるまじき行為で、敬意が感じられず残念だ」とのコメントを発表。金メダルを「アスリートの長年にわたる努力の結晶」と表現し、新型コロナウイルスの感染予防の観点からも問題視した。河村氏には「責任あるリーダーとしての行動を切に願う」とした。
地元を代表する企業からの異例の声明を受け、河村氏は即座に対応した。取材陣の前で謝罪文を朗読。「長年の努力の結晶である金メダルを汚す行為に及びました。名古屋市長としての立場をわきまえない、極めて不適切な行為であったと猛省すべきと痛感している」と頭を下げた。行為に至った経緯については「憧れの金メダルが目の前にあり、とっさの行動だった」と話した。
ただ、後藤の名前を言いよどんだほか、途中何度もつかえながら朗読する様子からは、反省の色が受け取れないような印象も。市によると、この日は「汚い」「失礼」などの苦情が4000件以上寄せられ、窓口の電話が一時つながりにくくなる状態になった。
河村氏の行為には、メダリストからも非難の声が相次いだ。今大会の日本勢金メダル1号となった柔道男子60キロ級の高藤直寿(28)は、自身のツイッターに「自分の金メダルでも傷つかないように優しく扱ってるのに。俺だったら泣く」と投稿した。
アテネ、北京両五輪で計4つの金メダルを獲得した競泳の北島康介さん(38)もツイッターで「そもそもなんで表敬訪問しなきゃいけないのか」と疑問を呈した(その後削除)。市によると、表敬訪問は後藤の出身地である同市熱田区からトヨタ側に提案して実現したという。
河村氏は、謝罪文を持ってトヨタ本社を訪れたが、自身は車の中で待機し、杉野みどり副市長らが渡したという。また日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長にも電話で謝罪したと明かしたが、市議会の5会派が猛省を促す要望書を提出するなど、騒動はすぐに収まりそうにない。