◆東京五輪 ボクシング(5日、両国国技館)
男子フライ級の準決勝が行われ、日本勢最後の1人、田中亮明(27)=中京高教諭=は、2019年世界選手権5位のカルロ・パアラム(フィリピン)に0―5で敗れ、惜しくも決勝進出はならなかった。3位決定戦がないため銅メダルが確定。同級では1960年ローマ五輪・田辺清の銅に並ぶ61年ぶり快挙を果たした。
3分3回を限界ぎりぎりまで戦い抜いた。終了ゴングが鳴るとロープに持たれるほど精も根も尽き果てるまで拳をブン回した。61年ぶりに日本ボクシング史の扉を開いた田中は「最高すね、気分は!」と晴れやかな顔を見せた。
試合が終わった直後は、「一番、頭に浮かんだのは感謝の気持ち。今回はいろんな人に応援してもらって今日まで戦い切れたのはみなさんの応援のお陰だと思ってるし感謝している」と涙声になった。
拳を交えたパアラムとは抱擁を交わし健闘をたたえ合った。「本当にあの時の感情は感謝の気持ちしかなかった。こういう気分になれたのもオリンピックだからなのかなと思ってます。こうやって最高の気分を味わえたのも五輪があったからこそ。ボランティア含め大会関係者の方には本当に感謝している。感謝の気持ちが出ちゃいました」
「ダッ!」「ダッ!」と、放った一発、一発に魂を込めた。「今大会は一歩も引かないってことだけ決めて戦い切れた。負けたんすけど、負けたと思ってないんで。自分との戦いには勝った。なので気分も悪くないすね」と完全燃焼した。
16年リオ五輪は出場できなかったが、辞めずにボクシングを続けた。高校から石の上にも10年。走り続けた自分を「(今後は)何かは決めてないけどずっと挑戦する姿勢は貫いて行こうと思う」とたたえた。
試合が終わった直後で「引退とか言うつもりないんで」と田中。進退については「ちょっと休むけど、自由にやるんで。やりたくなったらやるし、辞めたくなったら誰にも言わずに辞めます」と笑った。
地元の岐阜・多治見市ではプロで元3階級制覇の弟・恒成(畑中)や、五輪直前に特訓を行った父・斉さんら家族や応援団が見守った。感謝の気持ちに満ちあふれ、田中は「負けちゃったんで」とはにかみつつ「でも僕が後悔してないんで。僕はかっこ良かったんじゃないかなって思ってます」と胸を張った。
プロのリングを席巻する弟・恒成とは違う景色を見た。田中は「僕があいつに言うことはないかな。でも最高の景色でした」と言うと、笑顔がはじけた。