◆東京五輪 陸上 男子200M決勝(4日、国立競技場)
男子200メートル決勝が行われ、今大会100メートル銅メダルのアンドレ・ドグラス(カナダ)が19秒62(向かい風0・5メートル)で金メダルに輝いた。男子200メートル日本記録を持ち、03年パリ世界陸上銅メダリストの末続慎吾(41)=EAGLERUN=が、スポーツ報知に観戦記を寄せた。自身が世陸メダル獲得時に左太ももを痛めながら走り抜いたことを振り返り、体一つで極限のスピードを出す短距離種目に介在する“恐怖”と“リミッター”を語った。(取材・構成=細野 友司)
「速い」とか、「強い」の先には、「すごみ」がある―。そんな感じを受けるレースでした。見応えがありました。5位までが19秒台でゴールしていて、誰かが突出しているというより、全体的に力が高い選手が多い印象だった。優勝したドグラスは、銅メダルを手にした100メートルとの2種目を世界レベルで戦ったわけです。最後はもう必死に走っていて、見ていて気持ち良かったですね。タイムも、向かい風条件の中でカナダ新記録ですよ。五輪の決勝でベストを出す前提で過ごしてきたんでしょうね。
距離がそこまで長くなくて、センスで走れる部分も多少なりともある100メートルと違って、200メートルは天性だけじゃ持っていけない。練習しないといけないんです。練習して、きつい思いをして。04年アテネ五輪で200メートルを回避したのは、銅メダルを取った前年のパリ世界陸上以上に練習ができないと思ったから。僕は200メートルと一番向き合ったし、一番逃げた人間です。天才と練習が相まって、手がつけられない存在になったのが、世界記録保持者のウサイン・ボルトですね。
僕はパリ世陸の200メートル決勝で、レース中に左太ももを痛めて、それでも走り切った。自分の理性で把握できないような力が出て、プチッと何かが切れている状態。リミッターが外れた時に出るすさまじい力だから、それは狂気ですよね。もともと生身の体でスピードを出すという行為は、やはり普通じゃない。怖いんですよ。持っている以上のスピードを出そうとする瞬間に、リミッターをかけないはずがない。自然と恐怖が出る。でも、それを外せる人間は強い。世陸の短距離でメダルを取った日本人は1人だけ。史上最速は山県君で、史上最強は僕だと思います。
今年6月で41歳になりました。年齢というのは、一つの抑止力であり、逃げられる部分だと思います。年齢を言い訳にできる年齢ではある。ただ、若い選手と対峙(たいじ)して、まだやれる、と思った。だから、まだやれるんでしょうね。今季100メートルでは10秒7台が出ていて、突き詰めていけば10秒4台くらい。日本選手権も自己ベスト9秒台の選手が走るといっても、勝敗を決するタイムは10秒1~2台なんですよ。10秒4を出す力のある選手が、10秒1~2台の選手と戦って勝とうと思うことは、自然なことです。だから僕は、日本一を目指していきます。(談)