末続慎吾氏、「速く」よりも「強く」なれ…惨敗の男子100メートル勢に提言

予選4着で敗退した山県亮太(ロイター)
予選4着で敗退した山県亮太(ロイター)

◆東京五輪 陸上男子100メートル予選(7月31日・国立競技場)

 08年北京五輪陸上男子400メートルリレー銀メダルの末続慎吾(41)=EAGLERUN=が、スポーツ報知に男子100メートルの観戦記を寄せた。日本勢は、9秒95の日本記録を持つ山県亮太(29)=セイコー=ら全3選手が、7月31日の予選で敗退。五輪史上初めて日本人9秒台スプリンターが出場した今大会で、苦い結末を迎えた敗因とは―。03年パリ世陸200メートルで銅メダルを手にした末続が、「速さ」と「強さ」の勝負論を語った。(取材・構成=細野 友司)

 

 強い―。五輪の決勝で走った彼らは強いですね。日本人が思うスプリンターのイメージと実際の違い、世界は本当に強いというのが伝わったのではないかと思います。蘇炳添(そ・へいてん、中国)が準決勝でアジア新記録の9秒83を出しましたけど、それでも出しきってしまって決勝は6位です。どれだけラウンドをこなして勝ちきれるか。線の太さみたいなものを鍛える部分が必要じゃないか、と思いました。

 予選で敗退した日本勢は実力を出しました。責められることは何もないと思います。ただ実力以上のものを出すには、やはり思いの力とか、情熱だと思う。レース後に淡々と振り返っていたのが気になりましたね。感情を爆発させるような悔しさがあったのか。冷静に抑えられたとしたら、だからこそ、その結果になったのではないか。ファイナリストになる、ではなく、ファイナルで戦う、という前提で過ごせたか。五輪は、やはりその人間が懸けた思いがあふれ出るものです。

 今大会は、予選から9秒台が4人。それを「想定外」と思うなら、見誤っていたことになります。海外勢は、タイムを出しに来ているのではなく、勝ちに来ている。ラウンドは関係ない。もし周りが9秒8で走ったら、9秒8で走るんです。確かに日本勢も17年以降、9秒台が4人出ました。速くなった。ただ、強くはなっていなかった。走り方や技術は高まってきたと思いますが、勝ち方や負け方にこだわる選手はいなかった。そこが日本の敗因だと思います。五輪は「自分の走りをして、ここが悪かった」という自己完結的なものではなく、勝負論なんです。

 そもそも、単に速さを追求するだけなら、何も8人並んで走る必要はないですよね。別々に走って、タイムで順番をつければいい。だけど、着順という結果をつけるのだから、やはりこの種目は勝負論を語らないといけない。かけっこなんで。技術を競う「競技」ではなく「競走(争)」だと思いますね。「自分の走り」で勝てるのは、世界記録を持つU・ボルトくらいです。圧倒的に速い連中と戦う時に「自分の走り」をするだけでは勝たせてもらえない。競技力以上に、勝負力を突き詰めないといけません。

 さて、100メートルがこれだけ注目を集める根底には、やはり“コンプレックス”があるのではないかと思っています。小さい頃、足が速い子ってモテるじゃないですか。あれは結構、本質的な話だと思っていて。自分にはない天賦のものが輝いて見える。そして、自分の夢を託すんじゃないでしょうか。僕が03年パリ世界陸上の200メートルで銅メダルを取った時、「日本人がやってくれた!」という反響はすごかった。なぜかといえば、もともと「日本人には無理」というコンプレックスがあったからです。足が速いことへの強烈な憧れですね。

 24年パリ五輪に向けた今後の3年間は、勝つということや、生き残ることが、より本質的に求められるでしょう。「東京五輪」や「9秒台」という、一般的に分かりやすい見え方がなくなりますから。本当に強い人間と、世界で順位を争う。メダルやファイナリストという基準値を追求する3年間になると思います。(08年北京五輪男子400メートルリレー銀)

 ◆末続 慎吾(すえつぐ・しんご)1980年6月2日、熊本市生まれ。41歳。九州学院高から東海大へ進学。大学在学中の2000年シドニー五輪に初出場し、200メートルで準決勝進出。03年パリ世界陸上200メートルで、世界大会の短距離個人種目では日本勢唯一の銅メダル。08年北京五輪で400メートルリレー銀メダル。100メートルの自己記録は日本歴代8位の10秒03、200メートルは日本記録の20秒03。

  • 08年の北京五輪男子400メートルリレー決勝で3位(後に繰り上げ)に入り、日の丸をまとい歓喜する日本代表の(左から)塚原、末続、朝原、高平

    08年の北京五輪男子400メートルリレー決勝で3位(後に繰り上げ)に入り、日の丸をまとい歓喜する日本代表の(左から)塚原、末続、朝原、高平

予選4着で敗退した山県亮太(ロイター)
08年の北京五輪男子400メートルリレー決勝で3位(後に繰り上げ)に入り、日の丸をまとい歓喜する日本代表の(左から)塚原、末続、朝原、高平
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