◆東京五輪 卓球女子シングルス3位決定戦(29日、東京体育館)
女子シングルスの伊藤美誠(20)=スターツ=が同種目で日本勢初となる銅メダルを獲得した。3位決定戦でユ・モンユ(31)=シンガポール=に4―1で勝利。準決勝は孫穎莎(20)=中国=に0―4で敗れたが、混合ダブルスの金に続くメダルとなった。日本は全5種目のうち、この種目で唯一、メダルがなかった。決勝は陳夢(27)=中国=が制した。1日からは3つめの種目の女子団体で再び打倒・中国を目指す。
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伊藤の成長は、松崎太佑コーチ(37)抜きでは語れない。2人が出会ったのは静岡・磐田市の「豊田町卓球スポーツ少年団」。小学校3年生ぐらいから時折、練習相手をする程度だったが、伊藤が中学に進学する際「大阪についてきてほしい」とオファーを受けた。1か月悩んだが、伊藤の素質に魅力を感じていただけに「ここで断ったら自分の人生でこの先、そんなチャンスはない」と決断した。
勤務先を退職。最初の1年は伊藤にスポンサーはついておらず、完全に無給で貯金を取り崩しながら生活した。練習相手や対戦相手の研究はもちろん、遠征時のユニホームの洗濯など生活面もサポート。睡眠時間が1、2時間という日もある中、フル回転で支えてきた。
中1から書き続けているのが“松崎ノート”だ。A4サイズに試合前の対策や試合中に気付いた点を書き込む。リオ五輪までで約80冊に達した。飛行機に乗る際に超過料金を取られるようになり、その後はパソコンに入力。紙に換算すれば160冊を超える分量だが、どのページにどの選手が書いてあるのかも記憶しており、海外遠征時に母・美乃りさんに「次にこの選手と当たるので、56冊目の真ん中あたりを写真を撮って送って下さい」と電話して、驚かせたこともある。
無類の卓球好きで研究熱心だ。睡眠時間を削っては「半分、趣味みたいな感じで」動画を見続ける。18年頃からは伊藤と話し、他の選手だけを見るように変えた。「調子が良かった時のイメージに引っ張られると間違った方向になる時もある。視野を広くできるように見ています」と明かす。
コーチを始めた頃は、世界のトップ選手に成長するイメージは描けていなかった。「同世代には強い選手が多かった。試合に勝つ能力は優れているけど、基本能力は高くない。練習だけ見ていると、どんどん僕の中で自信がなくなっていった」。だが、苦手のフットワーク練習にも自発的に取り組むようになり、18年世界選手権団体戦で劉に勝った瞬間に「この方向性で間違ってない」と確信。今大会もシングルスはベンチ入り。二人三脚でメダルを導いた。(林 直史)