五輪開会式の日に「五輪」が出てこないタイムラインを眺めながら思うこと

五輪モニュメントと国立競技場
五輪モニュメントと国立競技場

 東京五輪の開会式が23日、午後8時から国立競技場で行われる。

 スポーツ新聞社に入って2年目の私が言うのもどうかとは思うが、友だちしかフォローしていないSNSのタイムラインで「五輪」を見かけることはほとんどない。運動部に入っていた過去があれば話は変わってくるのかもしれないが、文化部出身の私のタイムラインには現れない。

 五輪の東京招致が決まった2013年、私は当時高校1年生だった。なんだか浮き足だった教室では空前の滝川クリステルブームが巻き起こっていた。昼休みには誰が開会式に出演するかの予想大会が繰り広げられ、誰もが自分の推しが出演すると主張した。遠い昔の記憶だ。そう感じる。

 「五輪」がテレビや新聞で、あるいは”知らない人たち“のSNSで繰り広げられる論戦のテーマになると同時に、同級生との会話の中で出てくることはなくなっていった。自分が賛か否か前置きしなければ語れなくなり、政治の話をするのと同じような感覚に陥るようになったからだと思う。あるいは、推しのライブがなくなり、お酒が飲めなくなり、待ち望んだ映画の公開が延期されることの方が私たちに迫る現実だったからかもしれない。

 私の目の前にも五輪以外の現実が日々押し寄せてきていた。今年5月、東京都で3度目の緊急事態宣言が延長されるにあたり、一部制限が緩和され、劇場や演芸場が有観客で営業を再開した。そんな中、休業要請が継続した映画館。社会部記者として私は、映画関係者への取材を試みていた。

 そこで出会ったのが、渋谷のミニシアター「ユーロスペース」の支配人・北條誠人さんだ。映画業界の厳しい現状についてうかがう取材が一段落し、一拍。「五輪、やるのかな」北條さんが言った。私は「あなたは開催についてどう思いますか」という次の質問を勝手に想像して、身構えた。

 けれど、実際に北條さんから来た質問は、「『アタックNo.1』って漫画知ってる?」だった。1964年の東京五輪で東洋の魔女が活躍したことから「アタックNo.1」が生まれた。そんな話が続いた。「五輪って、スポーツだけじゃなく文化にも影響を与えるんだよね」フラットな話し方だった。私は「ユーロスペース」内にあるたくさんの本が並ぶ支配人の部屋に、五輪を語れていた”あの頃“の教室を重ねた。

 そんな話をまたしたくて、7月、再び北條さんを訪ねた。今度は五輪の公式映画の話をした。今回の五輪では河瀬直美氏が監督を務めることになっている。北條さんは「僕はスポーツ選手でも何でもないから、僕にとっての五輪って映画なんだよね」といった。

 1932年のロサンゼルス五輪以降、大会ごとに製作されてきた公式映画。テレビ中継の技術が進歩しても、五輪映画は「公式」という形で作られ続けている。「その五輪から何を捨てて何を残して伝えたいのか。監督のフィルターを通すことが中継との違い」だという。「今回の五輪もそこしかないと思うんだよ。何を忘れて、何が記憶に残っているのか。それを他の人たちと話すときにどういう言葉が沸き上がって来るのか」

 滝川クリステルの「お・も・て・な・し」はいつの間にか現れた「安心・安全」によってかき消された。だけど、そのどちらも私から沸き上がった言葉ではない。「前の東京五輪や札幌五輪までは特に若い人たちが五輪に託して自分の将来を重ねられていた幸せっていうのがあったから…」。私にとっての五輪は何なのか。賛も否もないタイムラインを私は今も眺めている。

 五輪期間中、私のタイムラインに「五輪」は現れるだろうか。すべてが終わった後、友だちと行く居酒屋のビールの横に、五輪の話はあるだろうか。いまだ何ひとつ想像はつかない。ただ、すべてが終わったとき、自分の中から沸き上がってくる言葉で、五輪と向きあいたいという漠然とした思いは芽生えている。

 東京五輪の開会式が23日、国立競技場で行われる。(記者コラム・瀬戸 花音)

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