東京五輪へ“ミスターゴールドメダルアナ”刈屋富士雄氏が特別寄稿 五輪アスリートは「廃虚に咲く花」

ライティングで浮かび上がる国立競技場
ライティングで浮かび上がる国立競技場

 東京五輪の開会式は23日、国立競技場で行われる。新型コロナウイルスの影響で史上初めて延期になった東京五輪の開幕に向け、夏冬通算16大会で、実況などで五輪取材に携わってきた“ミスター・ゴールドメダルアナ”こと、元NHKアナウンサーの刈屋富士雄さん(61)が、スポーツ報知に特別寄稿。コロナ下で開催される東京五輪の意義を語った。

 東京五輪の舞台に立つアスリートの姿を思い描いた。一言で形容するなら「廃虚に咲く花」。私はそう思った。1896年のアテネ大会から始まった近代五輪は今年で125年。人類史を映す鏡となってきた五輪は肥大化の一途をたどり、それ自体が一つの文明となった。しかし、新型コロナウイルスによりその文明が滅ぼされた。

 84年ロサンゼルス大会を機に商業主義がはびこり、文化、医療、科学など様々な要素を取り込んで五輪はさながら建て増しを続ける巨大な城と化した。一部を除いて無観客となり、アスリート以外のすべてがなくなった状態で開幕を迎える東京五輪は、その巨大な城が落城しまさに廃虚と言える。前回64年東京で夢や希望を大きく膨らませて迎えた五輪には、いまや多くの日本人が失望感を抱いていると思う。

 では、今東京で五輪を実施する意義や大義名分はあるのか。開催国の務めを満足に果たせないこの状況で開幕する東京での五輪に、私は大義名分はないと思う。ワクチンを作れなければ、手にも入らない、打てない。政府は1年延期を決めた際、「新型コロナに打ち勝った証し」にすると掲げながら場当たり的な対応を繰り返し、東日本大震災の復興の姿を見せるというテーマも示せなくなった。つまり東京で五輪を開催するという意義は完全に消え去った。

 ただし、「五輪」を開催する意義だけは残っている。コロナ禍という未曾有の危機を乗り越えようと不断の努力をする世界中の人々の代表が、東京に集まってきたアスリートたちであり、夢や希望を鍛え上げた肉体で体現する彼らの姿勢を、世界中の人々が共通して認識できる舞台こそが、唯一、五輪だけだと思うからだ。肥大化した五輪の皮がすべてむかれ、最後に残ったピュアな部分こそがアスリートであり、真の五輪の姿がある。努力の日々を積み重ねた世界のアスリートが立てば、その舞台の価値は変わらないし、その闘いは「一瞬にして永遠の煌めき」を放つ。アスリートが見せる一人一人の心に訴える力強いメッセージこそが五輪本来が持つ力だ。それを東京から発信することが今回の意義だと思う。

 元来、五輪の本質は世界平和と人権、平等である。その象徴でもある聖火には国境も人種もなく世界中を平等に照らす力がある。日本中をつないだ聖火リレーは、亡くした夫や妻、子供、家族のために走る人、地域の伝統文化を守ろうという人々、障害という苦難に立ち向かう人々など、聖火に自身の人生を託し、その人生が繋がってきた。胸が熱くなり涙が出るほど感動的なドラマが数多くあった。その人々とそれに共感する人々がいるだけでも五輪を開催する意義はある。

 テニスのウィンブルドンや大リーグ球宴の熱気には、日常生活を取り戻そうとコロナに闘いを挑んでいる人々の姿が見えた。対して日本はどうか。「息をひそめてひっそりしていればいい」。そんな風潮ではないだろうか。言論が萎縮し、努力をする人を認めることにすら批判的な言動まで出ている。

 国内では批判的な意見が多い、この状況下で開幕する東京で問われることは「人が生きていく上でスポーツ、五輪は本当に大切なのか」。東京大会はスポーツ界、五輪にとって歴史的な転換期になるだろう。ただ、五輪には夢がかなう瞬間、希望が生まれる瞬間がある。それを見た世界中の人々は、人が生きていく上で何が大切かを実感するはずだ。たとえそれが廃虚であろうとアスリートという名の花は必ず咲く。そしてその花は未来を変えていく。(元NHKアナウンサー・解説主幹、立飛HD執行役員スポーツプロデューサー)

 ◆刈屋 富士雄(かりや・ふじお)1960年4月3日、静岡・御殿場市生まれ。61歳。NHK解説主幹。御殿場南高を経て早大社会科学部へ。ボート部に所属し、早慶レガッタ出場。83年にNHK入局。スポーツアナウンサーとして大相撲、陸上、体操やフィギュアスケートなどの五輪実況を担当し、2004年アテネ五輪の男子体操団体決勝での「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ!」を始め、数多くの感動的なフレーズを生んだ。現在は立飛ホールディングス執行役員スポーツプロデューサーを務める。東京五輪に向けては、立飛HD主導で、東京・立川市や中央大学(八王子市)と連係し、北中南米やカリブの中小国が加盟する「パンアメリカン(パンナム)スポーツ機構」の26の国と地域を招いて、事前合同キャンプ「パンナムスポーツ交流プロジェクト実行委員会」の副委員長を務めた。

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