仲村トオル、野球挫折した15歳の自分へ伝えたい思い…テレ東連ドラ「八月は夜のバッティングセンターで。」主演

スポーツ報知
野球ボールを手にポーズをとる仲村トオル(カメラ・堺 恒志)

 俳優の仲村トオル(55)が、主演するテレビ東京系連続ドラマ「八月は夜のバッティングセンターで。」(水曜・深夜1時10分)で存在感を放っている。真夏のバッティングセンターを舞台に、仲村演じる元プロ野球選手が悩める客に人生の助言を授けるヒューマンストーリーで、週替わりで出演するプロ野球OBのレジェンド選手らとの競演も話題だ。自身も元野球少年で、かつては大きな挫折を味わったことも。失敗や葛藤の先に見えてきた人生観に迫った。(ペン・宮路美穂、カメラ・堺 恒志)

 物語を背負った男が好きだった。「小学校高学年から中学生ぐらいの時にかけて、自分の部屋に貼っていたポスターはジャイアンツの高田繁さんでした。当時は単純に格好いいなと思っただけだった。でも後から考えると、長嶋(茂雄)さんが引退し監督になって、巨人のサードを誰がやるんだとなって、富田(勝)さんとかデーブ・ジョンソン…。でも、そこまで定着せず、誰かがやらなきゃという流れで、ずっとレフトを守ってきた高田さんが、すさまじい練習をしてサードを守ることになった。そのプロセス、物語に、子供なりに惹(ひ)かれるものがあったんだと思います」

 「八月は夜のバッティングセンターで。」で仲村が演じる主人公・伊藤は、葛藤を抱える登場人物の“物語”にそっと寄り添う男だ。「一度スイングを見れば、その人の悩みが分かる」という特技を持つ元プロ野球選手。バッティングセンターを訪れた女性客に、自身の野球論に基づいたアドバイスを授けることで、仕事や恋愛、家庭環境など人生の悩みも解きほぐしていく。ドラマのテーマは「ライフ・イズ・ベースボール」だ。

 「セリフにもあるんですが、伊藤自身は『名もなき選手』だった。おそらく挫折も何度もしただろうし、壁にぶつかったこともあるはず。そういう人ならではの語りかけ方をしたい。『外側から見ると、つまずいた石はそんなに大きくない。あなたの脚力があれば乗り越えられるよ』って。厳しい口調も多々あるんですけど、最終的には応援の気持ちを、というのは意識しました」

 仲村自身は、野球は「優しいスポーツ」と捉えている。「必ず攻撃の回が回ってきて、バッターになれる。平等にチャンスがあって、諦めなければ最終回は大逆転するかもしれない。野球というスポーツの優しさが、このドラマでも誰かの背中を押して、前に踏み出すきっかけを与えているのではと思います」

 同作には週替わりでレジェンド選手が登場するが、名だたるスタープレーヤーたちとの共演には胸が躍った。1話は元巨人・Rソックスの岡島秀樹氏、2話は元中日・楽天の大砲・山崎武司氏が出演。21日の3話では、ソフトバンクやMLBでも活躍し、現在はBCリーグ・栃木に在籍する川崎宗則内野手が出演。この先も元メジャーリーガーや日本球界をリードした大物が出演を控えている。

 「(解禁前情報のため)お名前は出せないんですが、あるコントロールが素晴らしいピッチャーの方に『コントロールって衰えないんですか?』と聞いたら『リリースポイントを忘れなければ大丈夫』と。おっさんからおじいちゃんになっていく僕ら世代の仲間に伝えたいぐらい感動した。確かに昔のような剛速球は投げられないかもしれない。パワフルなバッティングはできないかもしれない。でも、ポイントを忘れなければ、そこそこの仕事はできるらしいよ、って」。年を重ねることへの漠然とした不安が吹っ切れた気がした。

 仲村自身も少年時代は野球に没頭。肩の強さを見込まれ、捕手として白球を追っていた。少年時代の会心のプレーを聞くと「1死ランナー三塁、僕は捕手で、相手バッターが左打者。その左足、捕手に近い方の足がわずかに浮いていた。『初球からスクイズだ!』と思って、初球から外して三塁ランナーをタッチアウトにしたとき、『俺、すげえ!』と思いました」と野球少年に戻ったように瞳を輝かせた。「その話を30年前ぐらいに作家の村上龍さんのトーク番組で話したとき『良い思い出は、なかなか職業にならないんだよね』と言われたんですけど…」

 忘れられない思い出もある。中学時に出場した地区大会。自分はめったに当たらない校舎の壁を悠々と越えるホームランを打つ対戦校の選手を目の当たりにし「高校で野球を続けても甲子園には出られない。絶対にプロにはなれない」と野球を続けることを断念した。

 「夏の大会で負けて、本当に何もやる気がなくなって。偏差値も10以上、下がって、第1志望の高校も落ちた。15歳の僕は、世の中にダメと言われたんだと思い込んでいた」。くしくも仲村が高校生だった81~83年は、早実・荒木大輔の「大ちゃんフィーバー」、水野雄仁を擁する池田やKKコンビのPL学園が甲子園をにぎわせていた。スター選手が活躍すればするほど現実を突きつけられるようでつらかった。「同い年の野球をやっている子たちが、甲子園でキラキラ輝いている姿はとてもじゃないけど見られなかった」。無気力で苦しい高校時代だった。

 大学2年の夏、求人誌を買いに行った書店で、立ち読みした雑誌に載っていた「ビー・バップ・ハイスクール」のオーディションに応募。約6000人のから主役に選ばれ、俳優の道への扉が開いた。役者業においても、野球で培った精神性に影響されていることは多いという。「野村克也さんの『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』は、まさにそうなんですよね。褒められたり、高視聴率とかは何でなんだろうと思うこともあるけど、ダメだった理由はちゃんとある」。役者として常に自問自答を繰り返しながら前に進んできた。

 今でも野球から力をもらっている。「江川(卓)さんの高校時代の動画とか、イチローさんのスーパープレー集とかはよく見ます。以前、ドラマでご一緒した若松節朗監督に『おまえ、まだイチローみたいになりたいのか』と言われて、『そりゃなりたいですよ!』って(笑い)。試合してみたいとか、対決したいより僕は『なりたい』が強い。いま大谷翔平さんを見ていても、彼みたいに活躍したい、輝きたいと思っちゃいますね」

 今回の撮影時、あるメジャー帰りのレジェンド投手から声をかけられ、胸が熱くなった。「アメリカに僕の作品のDVDを持って行ってくれていたと聞きました。『僕ら世代は、あぶない刑事とビー・バップは外せないでしょ』って言ってくださって…。15歳の自分にタイムスリップして『お前は自分がダメだと思っているかもしれないけど、40年後にこんなにすごい元メジャーリーガーから自分が出たドラマや映画を褒めてもらえるぞ。下を向いてないで、前向いて頑張れ』って言ってあげたいと思いました」

 何かの道を諦めた時、思うような結果が出ずにもがく時。時を戻したり、止めることはできないが、未来への扉を見つけることはできる。「30~40代の時、同世代プレーヤーたちが次々とユニホームを脱いでいった。そのときは『役者でよかった』と思った。30代で若造扱いしてもらえますから…。でも時間がたって今、みなさんが指導者になったり、新たな挑戦をされている姿を見聞きした時、当たり前だけど人生は続くんだって思い知らされた」。生きている限り、自分自身の物語は終わらない。失敗や挫折も胸に抱きながら、仲村は「仲村トオル」としての物語を紡いでいく。

 ◆仲村 トオル(なかむら・とおる)1965年9月5日、東京都生まれ。55歳。85年、映画「ビー・バップ・ハイスクール」でデビューし、多くの新人賞を受賞。86年から日本テレビ系「あぶない刑事」シリーズでブレイク。年内の待機作に8月スタートのWOWOW連ドラ「密告はうたう―警視庁監察ファイル」、10月期のTBS日曜劇場「日本沈没―希望のひと―」など。8月22日より舞台「ケムリ研究室no.2『砂の女』」が開幕予定。

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