河瀬直美監督、コロナ禍での五輪公式映画撮り切る「記録することに意義」

インタビューに応じた河瀬直美監督
インタビューに応じた河瀬直美監督

 東京五輪の公式映画監督を務める河瀬直美氏(52)がこのほど、スポーツ報知のインタビューに応じ、これまでの撮影状況や今後の方針を語った。コロナ禍によって「スポーツの祭典」だけでなく、「人類が迎えた時代の転換期」へと視野を拡大。「つながり」をテーマに設定し、100人以上のスタッフ、50台ほどのカメラで撮影を進めている。開催に反対意見が多いことも理解した上で「次の時代の人たちがどう判断するのか興味がある」と先を見据えている。(有野 博幸)

 映画監督として世界的に高く評価される一方、学生時代にはバスケットボールに熱中し、奈良県選抜として国体にも出場した河瀬監督。東京五輪の記録映画を手掛けることは「運命。自分の役割だと感じる。今後の人生で、これほど大きな規模のドキュメンタリーを撮ることはない」と語る。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大は撮影にも暗い影を落としている。「テーマとかコンセプトが大きく変更となり、世界中を飛び回って取材することもできない」。ただ、嘆いてばかりもいられない。「パンデミック下の人類の転換期を記録することに意義があるのかな。50年、100年先にも、あの時、人類はこういう決断をしたと振り返ることができれば」とコロナ禍を逆手に取って、前向きに捉えている。

 「つながり」をテーマに設定。「見えないところで頑張っている人がいるからこうなった、ということを見せていきたい」。五輪の反対意見にも耳を傾け「未来に、これがどうなっていくのか、次の時代の人たちは、これをどう考えるのか。そこに興味がある」。ボランティアの辞退者や、開催中止を訴えた演出家の宮本亞門氏(63)にも直接、取材を行っているという。

 自身も母親である河瀬監督ならでは、の視点も取り入れる。「競技の枠を超えて、世界中のママアスリートやケニアで活動している難民選手団も紹介する予定」。監督の下に10人のディレクターが配置され、それぞれのチームが取材を行い、週1回は成果を共有し、次週の方針を確認する。この1年で400時間以上撮影した映像は3人の編集スタッフが整理を行い、今後はヘリコプターで上空からも撮影するという。

 金メダリストなど特定の選手にスポットライトを当てるのか、それとも競技全体を記録するのか。「バランスが大事だと思う。柔道の大野将平選手などプライベートな部分も含めて取材を続けている選手は何人かいます」。白血病を克服し、出場権を得た競泳女子の池江璃花子(21)については「すべてのメディアが注目する選手の場合、もっと裏側を撮らないと、私たちがやる意味はないのかな。日本記録達成の瞬間などは撮影しています」と明かした。

 〇…1964年に開催された東京五輪の公式記録映画「東京オリンピック」は黒澤明監督の降板で急きょ、依頼を受けた市川崑監督がメガホンをとった。「世界の平和と友情」をテーマに、競技を見守る観客の表情も鮮やかに記録。170分にまとめ、65年3月に公開された。マラソン金メダルのアベベが走る先に聖火が揺れる名場面には秘密が。実際のコースに選手と聖火を一緒に映せる場所がなく、アベベに頼んで競技翌日に少し走ってもらい、撮り直したという。

 ◆河瀬 直美(かわせ・なおみ)1969年5月30日、奈良市生まれ。52歳。89年、大阪写真専門学校映画科卒。劇映画デビュー作「萌の朱雀」(97年)でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少の27歳で受賞。07年に「殯(もがり)の森」が同映画祭で最高賞に次ぐグランプリを受賞。20年に「朝が来る」で第45回報知映画賞監督賞。21年にバスケットボール女子のWリーグ会長に就任した。

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