谷川浩司九段、藤井聡太棋聖に「羽生さんに対するものと同じ思いがある」棋聖戦第3局解説

「初防衛」の文字を掲げる藤井聡太棋聖
「初防衛」の文字を掲げる藤井聡太棋聖

 将棋の藤井聡太棋聖(18)=王位=に渡辺明名人(37)=棋王・王将=が挑戦していた第92期棋聖戦五番勝負第3局は3日、静岡県沼津市の「沼津御用邸東附属邸第1学問所」で行われ、後手の藤井棋聖が100手で勝ち、シリーズ3連勝でタイトルを初防衛した。史上最年少記録を更新する18歳11か月でのタイトル防衛・九段昇段となった。藤井棋聖と同じように中学生で棋士になり、史上最年少の21歳で名人になった谷川浩司九段(59)に第3局と藤井棋聖の今を聞いた。

 勝負を決めたのは、形勢不明の終盤における藤井棋聖の瞬発力でした。お互いの玉が危ない形の中で一瞬のスキで△8九飛から攻めに出たのが好判断でしたね。時間もなく、一手ごとに状況が目まぐるしく変わっていく中でも局面を見極めることができていたということでしょう。

 渡辺名人は飛車を切って攻める決断をしましたが、直後に40分間の長考があったりもしたので、どこかで読みの変更があったのかもしれません。

 最後、藤井棋聖に勝ち方はいろいろあったと思いますが、△7一飛(相手の馬が利いている地点に飛車を捨てるアクロバティックな一手)を指されては、ちょっとかないませんね…。

 今回のシリーズにも、本局にも、渡辺名人に期するものがあったことは将棋を見れば分かります。綿密な準備をして臨んでいましたけど、的確に対応した藤井棋聖の堂々たる防衛でした。

 初防衛戦の番勝負で防衛できたケースは3割くらいのようですね。大抵は初防衛戦は苦戦するものですし、重圧を感じるものですけど、藤井さんには当てはまらなかったようです。五番勝負の前には「決勝戦にスーパーシードの位置から出られることを喜びたい」というようなことを話していたみたいですので。防衛戦ではなく、決勝戦。言われてみれば…なんですけど、18歳にそのような心境になられたら、もう…ちょっと、困ったものだなあ、と思いますよね(笑)。

 3局は全て、現代将棋の最高峰の戦いでした。第1局は以前に2人が対戦した将棋の下地から発展させた研究将棋。第2局は名人の堅さ対棋聖のバランス。時間10分を切ってからの藤井棋聖の戦い方が圧巻で、疑問手はなかったです。

 第3局も後手が急戦で変化していく現代の矢倉ですね。互いに玉が不安定なまま戦うので、現代の主流の戦いです。不安定な中でも、中終盤を読み切っていかないと、今の時代ではタイトルを取れないのかなと思わせるような将棋でした。

 タイトルホルダーになってからの1年も藤井棋聖は成長を続けました。当然、対戦相手が厳しくなる中で高いパフォーマンスを見せ続け、作戦の幅も広げていった。先手での「相掛かり」はあまり指していませんでしたが、現代の流行型なので対応してきた。あとは「変わらないことのすごさ」ですね。精神面など、一局に臨む姿勢において変わらないことはすごいことです。タイトルホルダーになれば、いろいろと環境も変わっていきますので。

 今はもう「将棋の真理を極めるかどうか」というところに到達しているような印象もあります。少し分かってきたかもしれない、いや、やはり分からないな、と逆戻りをし続けるものというのが私の感覚ですが、藤井棋聖は18歳で極めることに近づいているようにも思えるんです。

 その点で、羽生善治さんに対するものと同じような思いがあります。自分が目指してきて分からなかったものを、羽生さんは分かっている。同じことを今、藤井棋聖に対して思っています。

 今後はまず豊島将之竜王とのふたつのタイトル戦になりますけど、豊島さんは覚悟を決めていると思う。「自分は30代(注・豊島竜王は31歳)をかけて藤井さんと戦うのだ」という覚悟です。まずはその戦いを注目したいです。

 藤井さんを野球の打者に例えると、ですか? え? 私の好きなタイガースの佐藤輝明選手? いえいえ…、まだまだ佐藤選手は発展途上なところがありますから、これからもっともっと完成していくことを期待しています。

 あらゆることに完成して弱点がないという意味では、藤井棋聖はイチロー選手に近いと思います。さらに、ファンだけでなくプロの想像を超えていっている意味では大谷翔平選手のような印象もあります。プロだって解説不能なのだから、解説をやめてファンの皆さんと一緒に楽しみたくなる。そんなところは近いのかもしれません。

 今後、私が21歳の時に達成した最年少名人の記録を超えるかどうか、という視点が出てくると思います。順位戦B級1組での昇級、A級での名人挑戦、名人戦七番勝負での勝利という3つをクリアするのはそんなに簡単ではないと思いますし、確率だけを考えれば1~2割くらいだと思いますが、あり得ないだろうと思われたことを全て成し遂げてきた藤井棋聖ですから、どうなるかは分かりません。

 間違いないのは、彼には記録の更新などに興味はないということ。ただ「強くなりたい」という思いだけを持ち続けると思います。

 ◆谷川 浩司(たにがわ・こうじ)1962年4月6日、神戸市生まれ。59歳。若松政和八段門下。76年、加藤一二三に次ぐ史上2人目の中学生棋士に。83年、史上最年少の21歳で名人に。97年、名人5期獲得で十七世名人資格保持者となる。通算獲得タイトルは歴代5位の27期。最速の詰みを目指す棋風は「光速の寄せ」と称される。2012年~17年、日本将棋連盟会長。14年、紫綬褒章受章。藤井二冠が小さな頃から「憧れ」と公言。新刊に「藤井聡太論 将棋の未来」(講談社+α新書)。

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