「檸檬先生」著者18歳・珠川こおりさん「執筆が私は一番好きなんだ」

 若手作家の登竜門「小説現代長編新人賞」を史上最年少で受賞した珠川(たまがわ)こおりさん(18)の受賞作「檸檬(れもん)先生」(講談社、1485円)が発売された。音や数字、文字などに色が見える現象「共感覚」が本書のテーマ。珠川さん自身は共感覚者ではないが、自分が知らない世界を真剣に描きたいという思いが起点となった。(増村 花梨)

 「共感覚」は、人の普段の感覚に加え、別の感覚が発生する知覚現象。音を聴くと色が見える「色聴共感覚」や、文字が色に見える「色字共感覚」など種類は150以上。女性や子どもの甲高い声を「黄色い声」と表現するのが身近な例えで、著名人では爆笑問題の田中裕二が共感覚者として知られる。

 本書は「私」と、私の目からはレモン色に映る「檸檬先生」の2人の共感覚者の物語。2人が持つ不思議な感覚は、周囲から“ふつう”ではないと、奇異な目で見られる。日常会話でも飛び交う“ふつう”という言葉について、珠川さんは「あくまで一人ひとりが持っている価値観のことであって、自分と世の中の普遍は別物と気づくことが大事」と言う。

 共感覚は実際の研究はあまり進んでおらず、未知なことも多い。「文字的に理解しても説得力が出ない。表現にはかなり苦戦した」。珠川さんの周囲にはいなかったため、共感覚者のアートや資料に触れ、可能な限り歩み寄ることでストーリーに厚みを加えた。

 幼い頃に母から教わった詩の素読が、本の世界へ入るきっかけとなった。「本特有の難語や表現は、素読で身についたんです。物語を書くことが好きになったのは、そこからの自然の流れ」

 小学2年生から執筆を始め、没頭する日々。だが、学生と小説家の二足のわらじは容易ではなかった。高校受験の際には、多忙により執筆から距離を置くことに。「その時、加藤シゲアキさんの小説『ピンクとグレー』に出会って。これまで必死に抑えてた気持ちが高まった。結局、執筆が私は一番好きなんだ、やめたくないんだって。だから勉強はあまりしていません(笑い)」

 多忙な日々の息抜きは、洋楽全般の弾き語り。「コロナ禍で、カラオケには行けてないけれど、大丈夫。家でも堂々と声出して歌っちゃうんで」と笑った。しっかりとした受け答えで大人びて見えるが、まだ18歳。無邪気で、うら若い一面ものぞかせた。

漫画家・山口つばさ氏が描いた「檸檬先生」の書影
漫画家・山口つばさ氏が描いた「檸檬先生」の書影

 装画は、月刊アフタヌーンで漫画「ブルーピリオド」を連載中の山口つばさ氏が担当。山口氏が自身のツイッターで「閃光(せんこう)のような才能が駆け抜ける一冊」と高く評価したことから、「ブルーピリオド」のファンの間でも話題となった。

 執筆活動で珠川さんが念頭に置くのは、一本の芯が通った作品を書くということ。「読後に何か考えてもらえるような作品にしたいんです。だから作中に自分の意見は書くし、読者の感想も気になる」。発売約1か月にして重版も決定。ますます多くの人の声が聞こえてきそうだ。

 ◆珠川 こおり(たまがわ・こおり)2002年、東京都生まれ。18歳。小学2年生から物語の創作を始める。高校受験で多忙となり一時執筆をやめるものの、高校入学を機に執筆を再開する。「檸檬先生」で第15回小説現代長編新人賞を受賞。

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