ユ・サンチョルさん最後の来日舞台裏「絶対に諦めません」横浜FM・柏でプレー、7日にがんで死去

横浜FM時代のユ・サンチョルさん
横浜FM時代のユ・サンチョルさん

 横浜FMや柏で活躍し、19年11月にステージ4のすい臓がんを公表した元韓国代表MF柳想鉄(ユ・サンチョル)氏が7日、49歳で死去した。横浜FM、柏でサンチョルさんの通訳を務めた高橋建登氏が10日、スポーツ報知の取材に応じ、熱いプレーで多くのサポーターを魅了した故人をしのんだ。

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 「マリノスの開幕戦に行きたい」。2020年2月17日。病のため監督業を退き、療養中だったサンチョルさんは、高橋氏に連絡を入れた。開幕戦まで1週間を切ったタイミングでの、突然の連絡だった。

 5日前の2月12日。ACLで韓国クラブと対戦した横浜FMの試合をテレビ観戦していたサンチョルさんは、横浜FMサポーターが「(病気に)勝てるぞ、サンチョルさん」と書かれた韓国語の横断幕を掲げていることに驚き、病身を押しての来日を決めた。感謝の想いを伝えるためだった。

 高橋氏は「つらい闘病生活の中で、本当に嬉しかったんだと思う。心が揺さぶられたのかな」と推察する。

 サンチョルさんの体調や新型コロナの感染状況を踏まえると、来日のチャンスは開幕戦のみ。車椅子は必要か? マイクを使ってあいさつする場は用意できるのか? クラブは高橋氏を通じてサンチョルさんと連絡を取り、その熱意に応えるために奔走した。

 迎えた2月23日。午前9時45分羽田空港着のフライトで6年ぶりに来日したサンチョルさんは、かつての本拠地・日産スタジアムへ。試合後、万雷の拍手に迎えられてサポーターの前に立ち、誓った。

 「私は絶対に諦めません。また皆さんとお会いしたい。一生懸命頑張ります。皆さんも健康でいてください」

 2泊3日の日本滞在中、痛みや苦しみは一切表情に出さなかった。「体もガッチリしていた。でも『全然変わってないじゃん』と話すと『外はいいんだけどね。問題は中なんだよ』って」

 食後は10錠以上の薬を服用。栗原勇蔵氏、榎本哲也氏、坂田大輔氏らかつての盟友と中華料理を楽しんだが、アルコールは口にしなかった。試合翌日にはサンチョルさんの希望で昔の住居、なじみの飲食店を回ったが―。

 「思い出作りなのかな、とも思いました。普通、家とか行かないと思うから。次はいつ来れるのかな、もしかしたら…という気持ちもあったと思う」と高橋氏は振り返る。

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 勝利のために、常に全力を注ぐ選手だった。「GK以外の全ポジションをこなすマルチプレーヤー」と評されたが、本人は「GKがけがしたら、俺はGKもやるよ」と話していたという。「『ここはやりたくない』などは聞いたことがなかった」と高橋氏。「監督はまず先発を10人決める。そして余ったポジションにサンチョルを入れる」という“都市伝説”まで生まれた。

 2003年途中、横浜FMに復帰した際はボランチとしての獲得だったが、当時の岡田武史監督は右サイドバックで起用した。「ウソつかれたなぁ」と笑っていたというが、初陣の清水戦で対峙したMF三都主アレサンドロを封じて連敗を止めると、チームはそのまま全勝で第1ステージを優勝。第2ステージも優勝し、韓国人Jリーガーで初めて年間優勝を経験した。

 J1通算113試合出場44得点という偉大な記録をもってしても、多くの人の中では「記録より記憶に残る選手」だったかもしれない。闘争心、負けん気を前面に出し、勝利のために尽力する選手だった。しかし、病には勝てなかった。

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 20年2月25日。離日の際、サンチョル氏と高橋氏は再会を誓い合った。

 「将来、監督とかコーチでマリノスに来なきゃね、と。まずは治そうねと言って。本人もマリノスで仕事がしたかったと思う。『しっかり治すよ』って言っていました」。これが2人の最後の会話となった。

 「スタジアムにもう一度戻りたい。それが彼の率直な気持ちで、(闘病中の)希望だったんだと思います」と高橋氏。サポーターに愛され、サポーターを愛した熱血漢は、病との闘いを終え、静かに天へと旅立った。(取材・構成 岡島 智哉)

 ◆柳 想鉄(ユ・サンチョル) 1972年10月18日、ソウル特別市生まれ。99年に蔚山(韓国)から横浜FM入りし、01年に柏へ。02年の蔚山を経て、03年途中から04年まで横浜FM。05年に蔚山へ戻り、同年限りで現役引退。引退後は韓国Kリーグの大田、仁川などを指揮したが、闘病のため19年限りで退任。韓国代表では主将も務め、98年フランスW杯、02年日韓W杯に出場。J1通算113試合44得点、韓国代表通算122試合出場18得点。

 ◆高橋 建登(たかはし・けんと) 1960年1月25日生まれ。97年にJクラブ通訳としてのキャリアをスタートさせ、湘南(97~98年)、柏(99~02年)、横浜FM(03~05、15~18年)、G大阪(09年)に在籍。洪明甫(ホン・ミョンボ)、柳想鉄、安貞桓(アン・ジョンファン)らを担当した。

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