フジテレビ元アナたちとの「旅」が教えてくれた潔さの美学…言葉への自信と社への愛と

「よくぞ、ここまで居させてくれてありがとう」とフジへの思いを明かした吉崎典子さん
「よくぞ、ここまで居させてくれてありがとう」とフジへの思いを明かした吉崎典子さん

 いかに分かりやすく視聴者にニュースを伝えるか―。そのことに長年、心を砕き、言葉を生業(なりわい)にして仕事をしてきた人たちの「言葉力」に魅了される1か月半を過ごした。

 5月1日から6月6日までの毎週土、日曜。フジテレビで人気アナウンサーとして活躍後、他部署に異動。新天地でも活躍している6人に次々と話を聞くインタビュー企画「フジテレビ元アナウンサー第二の人生」を手がけた。

 取材対象は1982年から93年まで12年連続で視聴率「三冠王」に輝いたフジ黄金時代を象徴する6人。1人目として登場したのは、今年10月に定年を迎える吉崎典子さん(59)だった。

 親しみやすい笑顔の「テンコさん」として「おはよう!ナイスデイ」のメインキャスターなどで人気者になったベテランは50歳で初めてアナウンス室から編成部の字幕統括担当部長に異動。その後、副会長秘書も4年間務め、現在は「アナトレ」講師として、アナウンサー志望の大学生たちを教える日々を送っている。

 そんな吉崎さんは「フジテレビは、とても自由だから入ってくる人も強い個性を持って入ってくる。個性を均一化せず、まずは持っているものを伸ばそう。せっかくの個性だから矯正することなく生かそうとしてくれますね」とフジの魅力を明かすと、「ここでずっとサラリーマンをしてきたわけで…。10月で定年を迎えるのですが、『よくぞ、これまで居させてくれてありがとう』という感謝の気持ちでいっぱいです」と笑顔を見せた。

「1人でも多くの人にフジテレビを好きになってほしい」と話した春日由実さん
「1人でも多くの人にフジテレビを好きになってほしい」と話した春日由実さん

 2人目は広報局企業広報部副部長として日々、取材の窓口として奔走する春日由実さん(46)。「とくダネ!」のプレゼンターなどで親しみやすい笑顔を見せてきた春日さんは42歳の夏にアナウンス室からの異動を言い渡された。

 心底驚いたものの「会社が異動の判断をしたのならば、素直に受け入れるのみ。この歳で自分を変えることは簡単ではないけれど、サラリーマンは環境が変わるきっかけを、会社が与えてくれるもの」と心の整理をつけ、広報室へ行った。

 今や記者たちからの信頼も厚い広報の“顔”となり、「企業広報という立場から会社の顔としてメッセージを発信し、1人でも多くの人にフジテレビを好きになってほしいという気持ちで仕事をしています。『空気を読むだけでなく、空気をつくる人間になりなさい』って、子どもにもいつも言っています」と、2児の母の顔も見せつつ話した。

「あの頃のキラキラしたフジを取り戻したい」と話した川端健嗣さん
「あの頃のキラキラしたフジを取り戻したい」と話した川端健嗣さん

 3人目は現在、宮内正喜会長(77)の秘書を務める川端健嗣さん(59)。端正なルックスでニュースキャスターから看板音楽番組「FNS歌謡祭」の司会までマルチに画面を彩ってきた「ミスター・フジテレビ」は51歳で初めてアナウンス室を離れ、BSフジに広報局専任局長として異動した。

 「心に決めていたことがあって。それまでアナウンス室を出なきゃいけなくなった人たちを送り出す時に『会社の決めたことだから文句を言うな。外に出ることは悪いことじゃないと思うよ』と、自分が言ってきました。だから、自分の時にジタバタするのはおかしいって。異動内示の時、『分かりました。ありがとうございました』と、その二言だけ言いました」と潔く振り返った。

 来年2月には定年を迎えるが「去年あたりから僕の同期がどんどん定年になって。みんな、そういう年になっちゃったんだなと思う一方で、在籍しているうちに何とかフジテレビが昔のような勢いを取り戻すのを見届けたいなという思いもあります。他局のある番組で司会者が『昔はキラキラしていましたね、フジテレビは』って言ったんですよ。笑い話になっている今のフジテレビって、どうしちゃったのって。『やっぱり、フジテレビだよね』って注目された『あの時』のフジテレビを自分がいる時に取り戻したいなと。そのためのお手伝いができればと思っています」と言った。

「これだけ生き生きとやっているという姿を後輩に見せたい」と話した木幡美子さん
「これだけ生き生きとやっているという姿を後輩に見せたい」と話した木幡美子さん

 4人目は総務局CSR推進部の局次長職兼部長の要職にある木幡美子さん(54)。凜(りん)とした魅力で長年、ニュースキャスターを務めた木幡さんは今、企業の社会的責任を受け持つCSR部門のトップとして、フジの屋台骨を支え、「アナウンサーが幅広いテーマを扱う平面的な仕事だとしたら、CSRは立体的で体積になっていく仕事。私はこっちの方が向いているのかも」と自己分析。

 「テレビ局の価値は視聴率が良い、悪いだけではない。社会貢献をこれだけしているということも大事ですし、しっかりと継続できる会社であってほしい。私自身もアナウンス室から出た人が、これだけ生き生きとやっているという姿を後輩に見せたいなと思います」ときっぱりと言った。

「いい時も悪い時も会社は人生そのもの」と言った境鶴丸さん
「いい時も悪い時も会社は人生そのもの」と言った境鶴丸さん

 5人目は2016年、52歳の時に自ら希望して初めての異動の道を選んだ境鶴丸さん(57)。現在、適正業務推進室内部監査部という“お堅い”部署に勤務する境さんは「このまま、ある年齢になった時にアナウンサーとして管理職になっていくのと、他の部署に異動して別の仕事をするのと、どっちがいいだろうかと、随分前から考えていました。当時、アナウンス室に残りたいと言ったら残れたと思いますが、管理職をやりたいとは思っていなかった。僕は管理職として定年を迎えるよりも他の部署に行って、新しいことを一から学ぶ環境に身を置きたいと思ったんです。他部署に異動して視野を広げたいという思いもありましたし、『自分の能力を考えればアナウンサーとして十分完走しただろう』という気持ちがありました」と、新天地を求めた思いを明かした。

 「今はアナウンサー時代に見えなかった会社の全体像が少しずつ見えて来ましたし、監査の仕事を通して何か役に立てればと思っています。いい時も悪い時も会社は人生そのものなので、もう1回、元気を取り戻したいなって。フジテレビという会社をより理解して定年を迎えることで、本当の意味でフジテレビを卒業することになるのだと思います」と、3年後の定年を明確に見据えていた。

「私からフジテレビを取ったら何も残らない」と言い切った阿部知代さん
「私からフジテレビを取ったら何も残らない」と言い切った阿部知代さん

 そして、大トリで登場した阿部知代さん(57)。キャスターにとどまらない魅力的な表情の数々で「なるほど!ザ・ワールド」のリポーターなどバラエティー番組も彩ってきた阿部さんは報道局異動後もキャスター兼デスクとして伝え手としての日々を継続していた。

 2年後に迫った定年を前に「私のような者を長く置いてくれているということで表されるように社員の個性を大切にする会社。私の明るい部分は会社が育ててくれました。私という畑の中の私自身が気づいていなかった芽を見つけて水を与えてくれた。私、根暗ですから…。これをやりたいと思って頑張って動いてもうまくいった試しがない。それでまた落ち込む…。でも、それとは全く違う、思いがけないものが(フジ入社後は)突然降ってきて、そうしてここまで来ました」と、あくまで謙虚に話した。

 その上で「執着しているとしたら、アナウンサーという仕事ではなく、フジテレビという会社に対してかも。育ててもらったので、すごく感謝しているし、社員としての人生を全うしたい。社外のイベントなどに呼んでいただくこともありますが、それは『フジテレビの阿部知代』だから。私からフジテレビを取ったら何も残らないですよ」と言い切り、「定年まであと2年1か月。でも『先のことは分からない』という考えは今でも変わっていないので、その時が来たら考えます。未来のことより今、目の前のことを大好きになって夢中になって取り組む。明日はまた別のお話。やっぱり短距離走者ですね。でも、走ると疲れるから早歩きくらいで」と微笑んだ。

 6人に共通していたのは最大の自己実現の場であったろう出役(出演者)としての機会を異動によって失っても新天地で前向きに働き、会社にとってかけがえのない存在になっていること。過去、自分の異動に不満を覚え、新たな職場で全力投球できなかった思い出が確かにある私にとって、まぶしいばかりの潔さだった。

 付け加えるなら6人が次々と明かしてくれたのは、全盛期の同局のキャッチフレーズ「楽しくなければテレビじゃない」なんて言葉では決して表現し切れない汗と涙の物語と高倍率の中、自身を選び、温かく受け入れてくれた会社への愛情のようなものだった。

 一見華やかなテレビ局の表も裏も知り尽くした元アナたちに本音を聞く6週間の“旅”はいったん終わった。その時、取材現場となった東京・台場のフジ本社に漂っていたのは、ここまでの会社員としての自身の歩みに満足している人だけが醸し出す穏やかな空気のようなもの。それは、まるで海へと吹き抜ける爽やかな風のような―。(記者コラム・中村 健吾)

「よくぞ、ここまで居させてくれてありがとう」とフジへの思いを明かした吉崎典子さん
「1人でも多くの人にフジテレビを好きになってほしい」と話した春日由実さん
「あの頃のキラキラしたフジを取り戻したい」と話した川端健嗣さん
「これだけ生き生きとやっているという姿を後輩に見せたい」と話した木幡美子さん
「いい時も悪い時も会社は人生そのもの」と言った境鶴丸さん
「私からフジテレビを取ったら何も残らない」と言い切った阿部知代さん
すべての写真を見る 6枚

コラムでHo!とは?
 スポーツ報知のwebサイト限定コラムです。最前線で取材する記者が、紙面では書き切れなかった裏話や、今話題となっている旬な出来事を深く掘り下げてお届けします。皆さんを「ほーっ!」とうならせるようなコラムを目指して日々配信しますので、どうぞお楽しみください。

芸能

宝塚歌劇特集
NEWS読売・報知 モバイルGIANTS 個人向け写真販売 ボーイズリーグ写真 法人向け紙面・写真使用申請