ワカサギ「芦ノ湖方式」で増…約20年前捕獲の親魚が水槽内で自然産卵、受精卵を稚魚にして放流

定置網で捕獲されたワカサギの親魚は大きな水槽に移され、ここで産卵する
定置網で捕獲されたワカサギの親魚は大きな水槽に移され、ここで産卵する

 釣り業界の気になる人に話を聞く「直撃インタビュー トップに聞く」。今回は神奈川・芦ノ湖の芦之湖漁協組・福井達也組合長を直撃。漁協組ではニジマスやブラウントラウトなどのマス類などを放流しているが、中でもワカサギは「芦ノ湖方式」と呼ばれる独自の方法を採用している。20年ほど前に捕獲した親魚を水槽内で自然産卵させ、その受精卵をふ化装置で稚魚にしてから放流するシステムで大幅にワカサギを増やすことに成功したのだ。福井組合長に養殖の難しさや、放流の意義などを聞いた。

 芦之湖漁協組では10魚種(ニジマス、ブラウントラウト、サクラマス、イワナ、コーホーサーモン、ヒメマス、サツキマス、ブラックバス、ヘラブナ、ワカサギ)を放流している。「試験的にシロザケやビワマスを放流したこともあります」と福井組合長。以前は他の養魚場から魚を購入して放していた。「サクラマスは北海道の養魚場からフェリーで新潟まで運び、そこから陸送でここまで持ってきました。そうなるとやはり魚が弱ってしまい、成果が出ないこともあったんです」

 そこで方向転換。漁協組は、もともと湖畔に養魚場を持っていた。「広い養魚場ではないが、ここで魚を育てられれば、一番いいタイミングで放流できるメリットがあるのでは」と放流魚を購入せず自前で養殖することにチャレンジした。

 さまざまな魚を養殖していく中で転機となったのはワカサギだった。「ワカサギの養殖を始めたのは約20年前。東海大の工藤盛徳教授とともにワカサギの産卵からふ化、放流までを行う方式を開発しました」。それまで漁協組では、ワカサギの卵をほかの湖から購入。ワカサギの卵が貼り付けられたシュロ枠(木の枠に植物の繊維を付けたもの)を湖に入れていた。手間がかからないという利点はあるものの、ふ化率の低さが欠点になっていた。

受精卵をふ化装置に移す
受精卵をふ化装置に移す

 芦ノ湖方式では〈1〉ワカサギ親魚を定置網などで捕獲する〈2〉大きな水槽に入れ、フタをして暗くして約20時間置く。この間に自然に産卵、受精する〈3〉受精卵を集め、粘着性を取ってからふ化棟に移す(粘着性が残ると卵同士がくっついて酸素が行き渡らずふ化しない)〈4〉ふ化した稚魚を湖に放す。自然産卵のため親魚は弱りにくいので、元気であればまた湖に戻す。弱ったものは加工品の原料としている。ただ、芦ノ湖方式も初めから現在の工程になったわけではない。初期は親魚の腹を指で押して卵を出して受精させていた。「初期は40%前後。自然産卵の現在は約90%」と、ふ化率は飛躍的に高まっている。

 養殖していく中で試行錯誤が続いた。「養殖には教科書がないんです」と福井組合長は言う。「ワカサギの稚魚は、生まれてから48時間以内でさいのうと呼ばれる栄養がたまっている袋がついている間にワムシというプランクトンを食べさせると腸管がつながり、生存率が上がるということが分かりました」。現在ではワムシも培養している。

 安定してワカサギを放流できたことによって、芦ノ湖での人気ターゲットになり、夏から秋にかけて多くの釣り人でにぎわうようになった。成功に裏にはもう一つの要因があった。「ワカサギのふ化事業が始まる前になりますが、1990年代に芦ノ湖周辺の公共下水道が整備された」と福井組合長は説明する。以前は生活排水が湖に流れ込んでいたが、下水道が整備されたことにより水質が格段に良くなった。「奇跡的なタイミングで民間のふ化事業と公共の下水道整備が重なった」と振り返る。

養魚場でサツキマスに餌を与える福井組合長
養魚場でサツキマスに餌を与える福井組合長

 ワカサギが増えたことでほかの魚にも好影響があった。「(ワカサギを餌とする)トラウト類、ブラックバスのコンディションが向上しました。それまで餌となっていたオイカワなどの在来種も増え、生物の多様性が確保できるようになった」と評価する。

 ワカサギのふ化事業は、今や漁協組の根幹になっている。「釣りブームが終わった後の芦ノ湖再生の切り札となったのが、ワカサギだった。ワカサギは初心者、女性、子どもが楽しめるということで、今の時代に合っている。漁協組としてはなくてはならない魚」という。

 ふ化事業が軌道に乗り、サクラマスやサツキマスの養殖にも力を入れ始めた。福井組合長は「美しいサクラマスが釣れることは、芦ノ湖の良さや歴史を表現するものだと思う。これから芦ノ湖を自然への敬意が育つようなフィールドにしていきたい」と夢を語った。

 ◆福井 達也(ふくい・たつや)1972年9月16日、神奈川県箱根町生まれ。48歳。箱根湾で福井釣船店を経営。2016年、芦之湖漁協組組合長就任。

  • 漁協組事務所で資料を手にする福井組合長

    漁協組事務所で資料を手にする福井組合長

定置網で捕獲されたワカサギの親魚は大きな水槽に移され、ここで産卵する
受精卵をふ化装置に移す
養魚場でサツキマスに餌を与える福井組合長
漁協組事務所で資料を手にする福井組合長
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