体操女子で日本のエース・村上茉愛(24)=日体ク=の武器といえば、床運動でみせるH難度「シリバス」(後方抱え込み2回宙返り2回ひねり)。メダル獲得の鍵を握る高難度の大技習得秘話と成功の鍵を本人のコメントをもとに解説する。
日本女子の体操で、史上初となる五輪個人種目のメダルが期待される村上。今や日本の絶対的エースが体操界に衝撃を与えたのは、小6の時だった。ある大会で床運動に出場し、H難度「シリバス」を成功させ、関係者の度肝を抜いた。同世代はもちろん、シニアの選手でもできる選手は少ない。高難度の大技を決めた小さな女の子に“天才少女”の名がついた。
始まりはトランポリンでの1回ひねりの練習中だ。「ひねろうという思いが強すぎて、ひねるスピードが速くなっちゃって、多くひねってしまったら、コーチに『それはシリバスだぞ』って言われたのかキッカケ」。最初はサラリとできたが、トランポリンから床の上で成功させるまでは、約2年の時間を費やしたという。
シリバスを生み出す源は太もも。最も自慢のパーツだ。「日本の中では一番パワーはあるとは思っている。ちゃんとした“脚”がないと、シリバスもできない。筋肉質なところは自分の武器」。鍛えられた太ももが、シリバス成功の鍵となる日本人離れしたパワーとスピードを生み出している。
日体大に進学するまで所属していた「池谷幸雄体操倶楽部」の代表で1988年ソウル、92年バルセロナ両五輪代表の池谷幸雄氏は「(シリバスは)相当な技術と脚力がないとできない。(村上は)筋力があって軸もブレない」と身体能力の高さを絶賛する。
2010年、全日本種目別選手権の床運動決勝で当時中学生ながらシニア選手を抑えて優勝。17年世界選手権では種目別床運動で日本女子63年ぶりの金メダルを獲得し、世界を制した。「4種目の中で一番好き」と絶対的な自信を持つ床運動。磨き上げたH難度を武器に、日本体操界に、新たな歴史を刻む。(小林 玲花)
◆女子・床運動の技の難度 H難度「シリバス」は88年ソウル五輪3冠のダニエラ・シリバス(ルーマニア)が初の成功者で名前がつけられた。現在の最高はJ難度。19年世界選手権で、女王バイルス(米国)が成功させた「後方抱え込み2回宙返り3回ひねり」で「バイルス2」の名がついた。この技は男女の全種目通じ史上最高難度。
◆村上 茉愛(むらかみ・まい)1996年8月5日、神奈川・相模原市生まれ。24歳。2歳から競技を始める。得意の床運動で14歳のときに種目別で初の日本一。2015年に日体大へ入学し、16年リオ五輪は団体総合で日本勢48年ぶりの4位入賞に貢献。17年世界選手権は種目別床運動で同大会日本女子63年ぶりの金メダル。18年世界選手権は個人総合で日本女子初の銀メダル、種目別床運動でも銅メダル。148センチ。