北澤豪と100万人の仲間たち<11>引退試合に集ったプロサッカー草創期を生きてきた同士たち

スポーツ報知
2003年6月21日、引退試合で2ゴールを決めて選手たちから胴上げされる北澤

 元サッカー日本代表、北澤豪氏(52)。波瀾万丈の競技人生を疾走し、現在は世界の子どもたちを支援する環境づくりを目指している。その軌跡とビジョンを、ノンフィクション作家の平山讓氏が独占取材。毎月10日と25日に記事を公開していく。

 どれほど必死に打ちこんできた仕事でも、最後の一日は誰にでも訪れる。2003年6月21日が、北澤豪にとってのそれだった。

 思い出深い国立競技場での引退試合に、縁(ゆかり)のある選手たち35名と、3万7200人ものサポーターが集(つど)った。

 北澤が入った「ヴェルディオールスターズ」には、Jリーグ開幕以後のウェルディ川崎黄金期をともに築いた選手はもちろん、読売サッカークラブのジュニアユース時代に憧れた大先輩も名を連ねてくれた。

 「ジョージ(与那城)さんは、トップ選手しか入れないクラブハウスのレストランで中学生の僕にカレーライスを食べさせてくれて、いつかはここにいられる選手になろうと思わせてくれた人でした。(戸塚)哲也さんは、1対1のプレーを見ていて、なんでこんなに駆け引きが巧(うま)いんだろうと憧れた人でした。まさか自分の引退試合に来てくださるなんて、本当に夢のようでした」

 対する「Jスターズ」には、敵として幾度となく対戦し、また日本代表でともに日の丸を背負った錚々(そうそう)たる顔ぶれが揃った。

 「(木村)和司さん、福田(正博)さん、井原(正巳)さんは、先に引退していたのにユニフォームを着てくれて。ロペス(呂比須ワグナー)なんて、すでに故郷で暮らしていたのに、この日のためにわざわざブラジルから日本へ飛んできてくれたんです。それに、まだ現役でコンフェデレーションズカップ中の日本代表を怪我で辞退していたゴンちゃん(中山雅史)や福西(崇史)は、合宿を休んでいるのにこっちの試合に出ちゃって、そんなのありかよって(笑)」

 豪華なメンバーによる、パスの回しあいと、ぶつかりあい。北澤の見せ場は、まず前半24分にやってきた。三浦知良からラモス瑠偉へ、そして北澤へとパスがつながれ、彼のシュートがゴールネットを揺らした。

 「ラモスさんは、言葉なんてなくても、僕がどこへ動くのか、先の先を読んでくれて、自分を犠牲にした動きができる選手なんです。ラモスさんの動きの意味はその瞬間には理解できなくても、ゴールが決まったあとで、あの動きこそが重要だったんだといつも気付かされます。いつでも僕はラモスさんの位置を確認してプレーしていたし、それは最後の試合でも同じでした」

ゴールから1分後の前半25分、次に魅せたのは、いつまでもチームメートでいたかった三浦知良だった。

 「引退試合って、公式戦の厳しさには至らず、どうしても弛(ゆる)くなってしまいがちでしょ。だけど僕は最後まできちんとサッカーをやりたいと思っていたら、カズさんが真剣にドリブルをして、みんなの闘志を呼び起こしてくれました。しかもゴールを決めて、カズダンスで観衆を沸かせてくれるなんて。何が人を幸せにするのか、カズさんは最後までプレーで教えてくれました」

 2対1、ヴェルディオールスターズの1点リードで迎えた後半14分、駄目押しゴールで試合を決めたのは、この日の主役だった。

 「普段はあまりドリブルなんて選択しなかったのに、気付いたら痛いはずの右足でボールを前へ前へと運んでいました。この足でここまで27年もプレーしてきて、日本リーグ時代に得点王を獲得したことで読売クラブ入りしたということも古くからの仲間は知ってくれているから、やっぱり最後はゴールにこだわって、思い切ってシュートを打ちました」

 アディショナルタイムが過ぎ、最後のホイッスルが長めに鳴り響いた。ピッチにも、スタンドにも、もの悲しさはなく、涙よりも笑顔がはじけるような、Jリーグ全体のムードメーカーらしい、最後の瞬間だった。

 試合後のセレモニー、事前に挨拶文を考えてマイクへと向かったが、口を衝(つ)いて出た言葉に自身も戸惑った。

 「サッカーをやめたくない! サッカーはやっぱり楽しい! そう言ってしまったんです。ヤバイ、俺、何を言っているんだろうと。いまサッカーをやめたばかりのはずの人間のスピーチなのにって慌てたんですけど、でも、それが、正直な気持ちだったんですよね」

 プロサッカー草創期をともに生きてきた同士たちから胴上げされた。宙を舞う彼が着ているシャツには、「ダイナモ」と称されてここまで走り続けてきた彼への、サポーターからの願いや、彼自身のこれからの決意ともとれるような一文がプリントされていた。

《北澤豪は止まらない》

 そんな引退試合終了から数時間が経過した国立競技場。選手も観客も去り、用具の撤収や客席の清掃もすっかり済んで、スタジアム全体がひっそりと静まりかえっていた。一つ、また一つと照明灯が消えてゆき、やがて真っ暗になりかけたピッチに、一人の男が佇んでいた。(敬称略)=続く=

 〇…北澤氏は、28日のワールドカップアジア予選・日本×ミャンマー(千葉・フクダ電子アリーナ) のテレビ解説を務める(日本テレビ系列、午後7時から全国ネット)。また、 「Santen IBSA ブラインドサッカーワールドグランプリ 2021 in 品川」が30日に開幕(6月5日まで品川区立天王洲公園)。大会は無観客で開催されるが、ユーチューブ公式チャンネルで全試合生配信され、さらに北澤氏が「応援キャプテン」として大会を盛り上げる。

 ◆平山讓(ひらやま・ゆずる) 1968年、東京生まれ。作家。ノンフィクションや実話を基にした物語を数多く手がける。主な著書は「ありがとう」(講談社/東映系にて全国ロードショー)、「ファイブ」(幻冬舎/NHKにてドラマ化)、「4アウト」(新潮社)、「パラリンピックからの贈りもの」(PHP研究所)、「中田翔 逃げない心 プロ野球選手という仕事」(主婦と生活社)など多数。

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