直木賞・桜木紫乃さんが初絵本…娘と孫、違った視点 どういうふうに老いと向き合っていくか

スポーツ報知
新作の絵本について語る桜木さん

 「ホテルローヤル」で第149回直木賞を受賞した釧路市出身の作家・桜木紫乃さん(56)が3月、初めての絵本となる「いつかあなたをわすれても」(集英社)を出版した。これは20年に発表した「家族じまい」と関連した作品。絵本への挑戦、この作品についての思いなどを語った。(聞き手・永井 順一郎)

 ―認知症の母・さとちゃんを見守る娘たちを題材にしたのが「家族じまい」でした。今回の「いつかあなたをわすれても」は、娘ではなく孫娘がさとちゃんや親に対して抱く思いを絵本という形にしたものです。

 桜木「『家族じまい』は、認知症の母について、その娘たちからみたものでしたが、今回は娘ではなく孫。家族じまいの続きというわけではなく、娘と孫、違った視点があり、それぞれがどういうふうに老いと向き合っていくか、というお話です」

 ―絵本という新しい分野への挑戦ですが、一番難しかったことはなんでしょうか?

 桜木「小説の文章よりもはるかに、いかに文章をそぎ落とすかという作業が続きました。そしてイラストを担当するオザワミカさんがどう受け止めてくださるかも冒険でした。でもオザワさんという素晴らしいイラストレーターに出会えたことで、表現が膨らんだと思います。実は一冊になるまでずっと担当を介してのやりとりだったんです。この絵があるならこの1行はいらない、とか、その逆もあり。オザワさんの姿勢には本当に頭が下がりました」

 ―プロフェッショナルとプロフェッショナル。お互いが自分の仕事をした結果なんでしょうね。

 桜木「私もオザワさんも自分の仕事をしたかったんですね。25枚の絵はすべてストーリーに合ったものですし、動きもあります。編集者いわく、ふたりを会わせないことで緊張感が欲しかったのだそうです」

 ―認知症というのは、現代社会において誰もが避けて通れないものです。実際、家族が認知症になったらどうしよう、自分がなった時、果たして家族はどう対処してくれるのかと考えます。

 桜木「私の母も認知症です。ただ、不思議と悲しいとは思いませんでした。そうなった以上、受け入れていこうと。母の体が忘れることを望んだのなら、それを否定しないでいようと思ったんです」

 ―そうは言っても、すぐに素直に受け入れられる人はなかなかいないように思ってしまいます。この絵本を通して桜木さんは読者に何を伝え、訴えたいのでしょう?

 桜木「伝えたい、訴えたいというよりも、答えが欲しくて書いているのだと思うんです。私と同じ世代にも、若いお母さんにも、お嬢さんにも、とどけばいいなと思います」

 ―女の子が女の人になり、母になり老いていく。少女が母と祖母の関係を自らに置き換えていく。「ママはさとちゃんとの日々をおもいだす。そしていつかママもわたしをわすれる日がくるかもしれない」。避けては通れない道、これがわたしたちのじゅんばんなんですね。

 桜木「死は怖いものですし、別れも切ない。でもせめて、通り過ぎた時間を否定するのではなく肯定していけたらなと。自分も人の親になってみて、改めて親が子供に伝えられることって、死に方だけだとも思うようになって。お互いに、肯定し合うためにああだこうだやっているのかもしれないですね」

 ―読み終えてこれだけのページ数(45ページ)なのに家族の在り方、介護についても考えさせられました。

 桜木「ありがとうございます。お別れの手前の心のかたちを、かすかにでも感じていただけたらと思います」

 ◆家族じまい 2020年6月に発表された。親の老い、認知症になった母に対し家族が、どういう思いで向き合っていくかをテーマにした作品。第15回中央公論文芸賞を受賞。

 ◆桜木 紫乃(さくらぎ・しの)1965年4月19日、北海道釧路市生まれ、56歳。2012年「ラブレス」で直木賞候補。13年「ホテルローヤル」で第149回直木賞を受賞した。4人組エアバンド「ゴールデンボンバー」の大ファンとしても知られている。

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