柔道五輪メダリスト・篠原信一さん(48)がアスリートの本音を聞き出す「突撃インタビュー」。柔道男子100キロ超級で東京五輪代表の原沢久喜(28)=百五銀行=とがっぷり組み合った。前回2016年リオデジャネイロ大会決勝で敗れた五輪連覇の宿敵、テディ・リネール(32)=フランス=へのリベンジや、1964年大会で日本が果たせなかった東京での最重量級制覇を託された使命感など、胸に秘めた思いを聞いた。<上からのつづき>
◆使命感
篠「57年前に(東京五輪で)神永昭夫先生がアントン・ヘーシンク(オランダ)に敗れ、逃した金メダルを日本が奪い返すという側面もある」
原「64年東京が柔道の五輪の始まりですから、その覇権を僕が取り戻したい。日本柔道の最重量級、地元開催とさまざまな重圧はあります。けど、自分自身がどうなりたいかが一番大切。日本の柔道がそう期待され、自分がその位置にいることを誇りに思い戦いたいです」
篠「井上康生監督も集大成になると思うけど、男にしたいみたいな気持ちは?」
原「井上監督もこれで監督は終わりだと思う。前回、僕は銀メダルを取ってしまったので今回しっかり金メダルを取って、監督を男にするっていったらおこまがしいですけど、そういう気持ちは持ってやってます」
篠「出しきったトレーニングと稽古で一番良い色のメダルを取ってほしいね。で、勝利者インタビューでは『篠原先生! 金メダル取りました!』と!(笑い)」
原「そう言えるように頑張りたいです(汗)」
◆黄“金”のシナリオ
篠「リネール対策、攻略は考えている?」
原「昔より組む力や相手を制する力だったり、組み手で100対0の場面を作って技をかけることが少なくなってる。技のキレも昔ほどなく、払い腰を使う場面も増えてますね。掛けつぶれることも多くなってて、そこに返し技や寝技でチャンスが生まれると思う。距離を詰めるような組み手だったり攻撃を考えて練習しています」
篠「他に金メダルに立ちはだかるライバルは?」
原「ジョージアのトゥシシビリ、チェコのクルパレク。ロシアのバシャエフ。それと、リネール選手はシード権持ってないんで1回戦で当たるかもしれないです」
篠「遅かれ早かれ勝つしかないからね。1回戦だろうが決勝であろうが、勝たないと金メダルは取れない。ただ俺やったら、できるだけ逆のブロックで4強が潰し合いをしてほしいと願う(笑い)」
原「タメになります」
◆100キロ超級展望
金メダルを狙う原沢に立ちはだかるのが、絶対王者のリネールだ。昨年2月のGSパリ大会で影浦心に敗れ、国際大会での連勝は154で止まったが「肩の荷が下りた。大事なのは東京五輪で金メダルを取ること」と再出発。今年1月のマスターズ大会を制している。国際大会への出場が少ないため、世界ランキングは16位。柔道では野村忠宏以来2人目の3連覇を目指す東京五輪はノーシードで迎えることになりそうだ。
◆100キロ超級展望
100キロ級で金メダルに輝いたリオ五輪後に階級を上げたルカシュ・クルパレク(30)=チェコ=も手ごわい。19年世界選手権では決勝で原沢に勝って優勝している。18年世界王者のグラム・トゥシシビリ(26)=ジョージア=、4月のGSアンタルヤ大会で原沢が敗れたタメルラン・バシャエフ(25)=ロシア=も強力なライバルになる。
◆原沢 久喜(はらさわ・ひさよし)1992年7月3日、山口・下関市生まれ。28歳。6歳から柔道を始める。早鞆高、日大を経て、2015年4月に日本中央競馬会へ進み、18年4月に退社。19年4月から百五銀行に所属。15、18年全日本選手権優勝。16年リオ五輪銀メダル。19年世界選手権銀メダル。右組み。得意技は内股。191センチ。家族は母、妹、弟。
◆コロナ禍戸惑いも…選手には夢、目標、誇り持って臨んでほしい
微力ながら五輪やスポーツに対し、何かしら恩返しができないかとの思いで始めたこの突撃企画も、今回が最終回になりました。18年9月から始まり、およそ2年半。残念なことにコロナ禍で世界中が五輪どころじゃないというムードになっていて、選手も戸惑いがあると思う。それでも開催されるなら、選手には自分の夢や目標、日本代表の誇りを持って臨んでほしいと心から思います。
選手を加害者のように指をさす人には、どうか選手を追いつめないでほしいと言いたい。「五輪を辞退しろ」と言うのは、お店の経営者なら「店をたため」と言われることに等しいことだと僕は思います。
五輪は開催しようとしているのに、子どもたちの大会などを中止にすることにも矛盾を感じていますし、こういう状況をつくっている政府や五輪の大会運営者らに対し、いらだちを隠せません。8万人のボランティアの方々なくして五輪は運営できないことも忘れられてもいるし、彼らのワクチンはどう考えているのだろうと思う。
毎日のように「安心安全」を連発していらっしゃる方々。五輪を開催できるという主張をするのなら国民に情報を開示し、説得力ある言葉を発信してください。それが国民の心の叫びだと思います。(篠原信一)