中村獅童(48)が4月24~25日、千葉・幕張メッセで超歌舞伎「御伽草紙戀姿絵(おとぎぞうしこいのすがたえ)」に出演した。伝統芸能とデジタル映像技術の融合により2016年に誕生した超歌舞伎の第6回で、バーチャルシンガーの初音ミクが悪役に初挑戦したことでも注目された。掛け声の禁止など新型コロナウイルス感染予防を徹底して、2年ぶりに有観客で開催。ニコニコ動画でのライブ配信では2日間で約33万人を魅了した。(有野博幸)
幕張メッセの舞台に立つのは2年ぶり。公演前に獅童は「皆さまと気持ちを一つに『疫病退散!』という気持ちを込め、未来への第一歩を進んでいけたら」と語り、超歌舞伎の聖地に足を踏み入れた。
幕が開き、獅童は裃(かみしも)姿で舞台に登場。声援の代わりにペンライトを必死に振る観客の姿に感極まり、声を詰まらせた。「こうして幕張メッセに戻ってくることができて感無量です」。ミクは「初めて悪役に挑戦する『御伽草紙戀姿絵』を上演でき、胸がいっぱいです」とあいさつ。会場ではイメージカラーである緑のペンライトが光り、モニターには「初音屋!」の文字が飛び交った。
歌舞伎でおなじみの土蜘蛛(つちぐも)伝説を題材にした物語。獅童演じる源頼光(みなもとのよりみつ)とミク演じる七綾太夫(ななあやだゆう)の恋を軸に、日本を魔界にしようとたくらむ壮大な悪との戦いを描く。獅童は気品漂う頼光と荒々しい盗賊・袴垂保輔(はかまだれやすすけ)の2役を勤めた。
ステージ奥の大型スクリーンにダイナミックな映像が流れ、一気に作品の世界観に引き込まれる。獅童演じる保輔が「お前の心を盗みに参った」と口説くように見せかけて七綾太夫(ミク)を斬る場面は驚きの展開。太夫の亡き魂と女郎蜘蛛(じょろうぐも)が合体し、発光しながら次第に隈(くま)取りが現れ、悪へと変化していく場面は圧巻だ。ミクの悪役ぶりは大きな見どころとなったが、しっとりと歌い踊る場面では指先まで美しくあでやかで目を引いた。
音楽ライブのように会場が一体となるのが超歌舞伎の魅力だ。頼光(獅童)が蜘蛛の糸に絡まりながら立ち回りを披露する場面は、古典を愛する歌舞伎ファンも納得の迫力。苦戦して「数多(あまた)の人の言の葉と白き炎(ほむら)を!」と呼びかけると、観客はペンライトを点灯し、加勢した。ライブ配信を視聴するユーザーは「萬屋!」「初音屋!」と文字を打ち込んで盛り上げた。
獅童は「(歌舞伎が庶民の大衆娯楽だった)江戸時代って観客は楽しいと思ったら笑って、掛け声をかけて楽しんでいた。これが歌舞伎の原点じゃないかな」と語る。超歌舞伎にはデジタル技術に加えて観客やネットユーザーも参加して、一緒に盛り上がる歌舞伎本来の魅力が詰まっている。
◆配信では元祖、先駆け
○…コロナの影響で昨年から松本幸四郎(48)が中心となって始めた「図夢(ずぅむ)歌舞伎」や中村壱太郎(30)、尾上右近(28)らによる「ART歌舞伎」など配信で楽しめる歌舞伎が増えている。しかし獅童は「配信では『超歌舞伎』が元祖、先駆けです」と胸を張る。ニコニコ動画のプレミアム会員に登録すれば、今回のアーカイブ視聴が今月25日まで可能。また、9月3~26日には京都・南座で超歌舞伎「御伽草紙戀姿絵」を上演する。