新日を救ったオスプレイと鷹木信悟、44分53秒の死闘…一部選手発熱欠場の非常事態の中、観客が大拍手を送った理由

44分53秒の死闘の末、鷹木信悟を破り、IWGP世界ヘビー級王座2度目の防衛を果たしたウィル・オスプレイ(新日本プロレス提供)
44分53秒の死闘の末、鷹木信悟を破り、IWGP世界ヘビー級王座2度目の防衛を果たしたウィル・オスプレイ(新日本プロレス提供)
場外にセットした長机にウィル・オスプレイを叩きつけた鷹木信悟(新日本プロレス提供)
場外にセットした長机にウィル・オスプレイを叩きつけた鷹木信悟(新日本プロレス提供)

 まさに大ピンチ。あと一歩でゴールデンウイーク恒例の大規模大会「レスリングどんたく2021」中止に追い込まれるところだった新日本プロレスを、2人のトップレスラーの命がけの闘いが救った。

 4日、福岡国際センターでの試合開始直前にセルリアンブルーのリングを激震が襲った。新型コロナ禍の中、消毒、検温など万全の感染症対策を取って開催にこぎつけた2連戦の2日目、出場予定の一部選手に発熱の症状が見られたのだ。

 試合開始前にリングに上がった菅林直樹会長(56)は一部の選手に発熱が確認され、PCR検査・抗原検査を行っていること。合わせて1日の大分・別府大会以降に発熱が確認された選手と一緒に試合をした選手も受診。大事をとっての試合欠場を発表した。

 「本日は政府が定めるルール、医事委員会のルールに則り、大会を開催いたします。また、本日出場予定の選手・スタッフの健康上の問題はございません。一部対戦カードが変更となりますことをご了承ください」と菅林氏。

 この決定に伴い、6選手が欠場。全6試合の予定が5試合に削られ、試合が行われた。

 突然のカード変更に会場を訪れたマスク姿の2367人の観客の表情にも明らかに不安がよぎった。

 そんな非常事態の中、すべてを救ったのが、メインイベントとして行われたIWGP世界ヘビー級選手権試合、王者・ウィル・オスプレイ(28)と鷹木信悟(38)の闘いだった。

 ベストバウトとうたわれた2019年のベスト・オブ・スーパージュニア決勝以来、過去3回のシングル対決で常に名勝負を展開してきた2人はこの日もノンストップの闘いを披露。「来た、来た、来たー!」と叫びながら肉弾戦を挑んでくる鷹木に、オスプレイは抜群の身体能力を武器に雪崩式スパニッシュフライ、シューティングスタープレスと次々と華麗な技を決める。

 激しい打撃戦も展開し、鉄柵、エプロンと共に相手の体をたたきつけ合った両雄。場外にセットした長机に必殺技・メイド・イン・ジャパンで叩きつけられ、グロッギー状態となる場面もあったオスプレイだったが、場外カウント19で、なんとかリング上にカムバック。

 鷹木式GTR、掟破りのオスカッター、パンピングボンバーと畳みかけられたが、最後は元兄貴分・オカダ・カズチカ(33)の必殺技・レインメーカーまで解禁。正面からのヒドゥン・ブレイドで鷹木の頭部を打ち抜くと、ストームブレイカーで3カウントを奪った。

 試合時間は今年の新日マット最長の44分53秒。感染予防のため、声を出しての応援が禁じられた観客たちは勝者も敗者もまったく関係なく、大きな手拍子と足踏みで2人の至高の闘いを称賛した。

 ローブローや凶器攻撃などのダーティーな攻撃など頭の片隅にもなく、ひたすら肉体を極限までぶつけ合った試合内容と共に観客の心を揺さぶったのは、リングサイドに陣取ったオスプレイ率いるユニット「ユナイテッド・エンパイア」軍のグレート―O―カーン(29)らが試合に介入する素振りすら見せなかったことだった。

 そう、昨夏の神宮球場大会で内藤哲也(38)に敗れるまでIWGPヘビーとインターコンチネンタルの2冠王だったEVIL(34)や3日のNEVER無差別級王座戦で王者・棚橋弘至(44)を破り、史上初の4冠に輝いたジェイ・ホワイト(28)の闘いには常にセコンド役のディック東郷(51)や外道(52)が介入。レフェリーの目を盗んでの凶器攻撃やローブローを繰り返した。

 コロナ禍のストレスを抱える中、会場に駆けつけたファンたちが見たかったのが、そんな闘いのはずはなく、EVILやジェイの闘いには、いつしか抗議の足踏みが付きものになった。ネット上には一部レフェリーの不可解なジャッジと共にこうした試合内容を容認する新日への疑問の声もじわじわと広がっていた。

 そんな日本最大の団体を覆った暗雲を一瞬で吹っ飛ばしたオスプレイと鷹木の神がかった闘い。解説席の獣神サンダー・ライガーさんも「レスラーは超人なんだけど、こいつらは超人過ぎるよ!」と興奮気味にたたえた。

 IWGP世界ヘビー級王座2度目の防衛を果たしたオスプレイは試合後のリング上でマイクを持つと、「タカギ、ありがとう。俺のIWGP世界ヘビー級王座初防衛戦の踏み台になってくれたことに感謝している」と憎まれ口をたたいたが、バックステージでは「今日のタカギの頑張りをたたえたい。あいつのおかげで俺は自分の限界を超えることができた」と、素直にその力を認めた。

 一方の鷹木もバックステージに引き上げてくると、両手と両ひざをついてがっくり。「悔しいが完敗だよ。今日は完敗だ。言い訳はできねえ」と、こちらもオスプレイの強さをたたえた。

 そう、2人が浮かべたのは、プロレスの、スポーツの枠を越え、死力を尽くした者だけが見せる満足げな笑みだった。そんな2人によって、すべての観客たちが心からの拍手を送り、満足し、笑顔で家路につく現在のプロレス界最高峰の試合が、この日、福岡で行われた。それこそが、たった一つの真実。7日には政府の緊急事態宣言延長の発表を受け、15日に予定されていた横浜スタジアムでの「WRESTLE GRAND SLAM in YOKOHAMA STADIUM」大会と29日に予定されていた東京ドームでの「WRESTLE GRAND SLAM in TOKYO DOME」両大会の延期を発表した新日。コロナ禍の逆境にある日本最大・最強のプロレス団体を救うのは、オスプレイと鷹木がこの日見せた本物の闘いしかない。私はそう思う。(記者コラム・中村 健吾)

44分53秒の死闘の末、鷹木信悟を破り、IWGP世界ヘビー級王座2度目の防衛を果たしたウィル・オスプレイ(新日本プロレス提供)
場外にセットした長机にウィル・オスプレイを叩きつけた鷹木信悟(新日本プロレス提供)
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