吉田沙保里さん×新谷仁美「長距離走が練習で一番嫌い」「同感です」…初対面で本音トーク前編 

お互いの経験を本音トークした吉田沙保里さん(左)と新谷仁美(取材は4月の緊急事態宣言発令前に行い、撮影時のみマスクを外しています=カメラ・頓所 美代子)
お互いの経験を本音トークした吉田沙保里さん(左)と新谷仁美(取材は4月の緊急事態宣言発令前に行い、撮影時のみマスクを外しています=カメラ・頓所 美代子)

 レスリング女子で五輪3大会連続金メダルの吉田沙保里さん(38)と、陸上女子1万メートルで東京五輪代表の新谷仁美(33)=積水化学=の初対談が実現した。競技への向き合い方から女子アスリートと生理について、さらには恋愛話に至るまで、本音トークを繰り広げた。(取材・構成=高木 恵、太田 涼)

 前編は競技への向き合い方から女子アスリートと生理について。

五輪出場体験を話す吉田沙保里さん
五輪出場体験を話す吉田沙保里さん

(1)競技への向き合い方

 ―初対面ですね。

 吉田(以下、吉)「いきなりだけど、私、長距離走が練習で一番嫌いだったの」

 新谷(以下、新)「同感です」

 吉「えっ? 長距離の選手だよね?」

 新「大っ嫌いです」

 吉「私もレスリングが好きかっていうと、確かにそんなに好きでもない…」

 新「ただ、結果を出すために必要なものをそろえることへの熱意はあります。好き嫌いではなく、どれだけその仕事にやる気や目標を持てるかで一日の過ごし方って全然違うので。それは競技をやめていた時期【注】に感じたことでしたね」

 【注】13年8月のモスクワ世陸1万メートル5位入賞を最後に、右足足底筋膜炎を理由として14年1月に引退。一般企業でOLとして働くも、「嫌いだけど天職」と18年6月に現役復帰。

 吉「復帰して代表になるって私には絶対無理。本当にすごい。『嫌いだけど熱意がある』っていうところと、つながってくるのかな」

 新「そこが唯一、自分を陸上に対して動かせる部分」

 吉「やっぱり好きなんだよ。じゃないと戻って来られないもん」

 新「そうなんですかね…。でも、この職業でいいのはお金だと思います。野球とかサッカーほどではないけど、他の競技スポーツよりはもらっている」

 吉「収入もモチベーションになっているんだね」

 新「それは大前提ですね。タダじゃ走らないので私。私を走らせたいならこれ(お金)です(笑い)」

 吉「レース前は?」

 新「本当に走りたくないんです。毎日の練習から緊張しています。100か0しか考えられなくて。世界一か世界ビリか、でしかないと思っちゃう。世界一を取らないと首を切られるっていう危機感を持っています」

 吉「私の場合は優勝以外は負けと一緒で。『絶対、金メダル取ってください』という言葉にすごくパワーをもらっていたの。『また金メダルって言われたよ』ってなっていたら、押し潰されていたかも。何でもポジティブに考える性格だから、ここまで来られたのかな」

 新「なんか、すみません、こんなこと言うのもあれなんですけど…すごく似てるなって思いました。期待されることは私もすごくうれしくって。期待された分だけ恐怖心はあるんですけど、絶対に応えたいんです」

対談中、笑顔を見せる新谷仁美
対談中、笑顔を見せる新谷仁美

(2)生理について積極的に発信

 ―新谷選手は生理について積極的に発信しています。

 吉「私はピルも飲んだことないし、毎月来ていた。減量もなかったので。周囲には2~3か月来なくて病院に行く人とかもいたけど」

 新「過度な減量が原因で無月経を経験していて。一度引退する前は40キロだったんです。166センチで」

 吉「166センチで!?」

 新「体脂肪が3%。『細い方が走れる』っていう思い込みが選手だけではなく指導者にも多いんです。生理がなくて一人前みたいな」

 吉「うわあ…」

 新「いつの間にか体重の数字を追い始めるんです。生理って100人いたら100通りあるというのが当たり前。現役選手が言うことで少しでも変わるのなら言うべきだなと」

 吉「私は経験したことがないから、苦しさとかは話せないけど。生理痛もほとんどなくて、試合にかぶっても全然、大丈夫。逆に生理の時の方が力が出たり…」

 新「それ、すごくうれしいです! 生理をマイナスに捉える選手が多いんです。でも私自身も思い返すと生理中って興奮状態みたいで、あっ、今も生理中なんですけど(笑い)。生理中の方が調子が良くて。東京五輪代表を決めた去年12月の日本選手権も生理1日目」

 吉「えー! そうだったんだ。私も『生理だから調子悪い』とはならなかった」

 新「生理があることを良しと思ってほしい。極端な話、競技人生なんて人生の一部。女性として自分の健康を守るということは、ずっと続いていくことだから」

 吉「復帰前と後で陸上界に変化はあった?」

 新「変わってきてはいると思います。ただ、陸上の女子長距離は他の競技に比べて淡々と競技をするだけの選手が多い。自分で何かを発信するっていう選手は非常に少ない気がします」

 吉「最近のスポーツ界では珍しいね」

 新「SNSをたまに更新しても試合の結果報告。『1位取りました』とか、調べたら分かるわ!みたいな。次世代につながる参考書みたいなものを作ってほしいのに。伝えたいことをちゃんと見つけてほしい」

後編は、下の【関連記事】からもご覧いただけます)

■アスリート40%が月経周期異常 国立スポーツ科学センター(JISS)が国内トップレベルの女性アスリート683人を対象に実施した過去のアンケート調査では、無月経を含む月経周期異常があるアスリートは約40%を占めた。競技別の無月経の割合は体操が75.0%、新体操が40.9%、フィギュアスケートが28.6%、陸上長距離が26.0%。体脂肪率が低くなる傾向にある審美系や持久系競技種目に目立つ傾向となった。16年リオ五輪前の調査では、国内トップレベルの女性アスリートの25%が治療を必要とする月経困難症を有し、7割超が月経前症候群(PMS)を自覚しながら、産婦人科の受診率は月経困難症を有するもので約1割と低かった。しかし、リオ五輪では出場選手164人中55%が月経対策で産婦人科を受診したと回答。徐々に意識が高まりつつある。

 ◆新谷 仁美(にいや・ひとみ)1988年2月26日、岡山・総社市生まれ。33歳。総社東中で陸上を始め、興譲館高から豊田自動織機に進み、佐倉アスリートクラブなどに所属。2007年東京マラソンで優勝。12年ロンドン五輪1万メートル9位、13年モスクワ世界陸上同5位。14年に引退も18年6月現役復帰。20年1月のヒューストンハーフマラソンで1時間6分38秒の日本新。同年12月の日本選手権1万メートルで30分20秒44の日本新をマークして優勝し、東京五輪代表に内定。

 ◆吉田 沙保里(よしだ・さおり)1982年10月5日、三重・津市生まれ。38歳。久居高―中京女大(現至学館大)卒。五輪は初出場の2004年アテネから08年北京、12年ロンドンと3連覇し、16年リオ大会は銀。個人種目では五輪と世界選手権の世界大会で16連覇、個人戦では206連勝を記録。12年に13大会連続で世界一となり、ギネス世界記録に認定。国民栄誉賞も授与された。19年1月に引退表明。157センチ。

お互いの経験を本音トークした吉田沙保里さん(左)と新谷仁美(取材は4月の緊急事態宣言発令前に行い、撮影時のみマスクを外しています=カメラ・頓所 美代子)
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