素顔の羽生善治九段  映画、うさぎ、ツイッター…ゆる~く聞いちゃいました

スポーツ報知
対局時とは異なる穏やかな表情を見せる羽生善治九段(カメラ・矢口 亨)

 将棋の羽生善治九段(50)は今月7日、都内で開催された第47期岡田美術館杯女流名人戦(主催・報知新聞社)の就位式・祝賀パーティーに花束贈呈ゲストとして登壇し、里見香奈女流名人(29)を祝福した。来場から開宴までの約25分間で行ったインタビュー。祝宴直前の短時間に「将棋とは何か」的な深遠かつ壮大な話など展開するわけにもいかず、たまには映画やうさぎ、ツイッターのことなど緩やか~な話題を尋ねてみました。(聞き手・北野 新太、カメラ・矢口 亨)

 ―いきなりで恐縮ですが、羽生さんが過去最高の映画と語る『闇の列車、光の旅』(※1)を見ました。全編を通して釘付けになる素晴らしい作品でしたが、羽生さんはあの映画のどんな点に魅かれたのでしょうか。

 「そうでしたか…それはありがとうございます。なんと言えばいいでしょうか…移民や中米の話が映画に取り上げられることは少なかったと思いますけど、あのような環境の中にいる人たちの生き様が非常によく表れている映画だなあ、と思ったんです。えーと…最後まで話してしまうとネタバレになってしまいますけど(笑い)…あまりロマンティックな形では終わらないじゃないですか。そこに感じたリアリティーがインパクトとして残りました。今までも悲惨な話を描く上では戦争などの題材もありましたけど、移民の問題もずっと在り続けるので、とてもリアリティーを感じました。非常に記憶に残っている映画です」

 ―以前は『ショーシャンクの空に』(※2)も挙げておられました。

 「あの作品は、刑務所という過酷な場所での人々のつながりが非常によく描かれていて魅力的ですよね。出てくる俳優さんたちも皆さん良かったですし。最後の方はなかなか現実にはないことかもしれないですけど、やはり感動的です」

 ―読書家としても知られますけど、最近は大澤正彦さんの『ドラえもんを本気でつくる』(※3)がオススメとか…。

 「大澤さんには直接お会いしたこともあるんです。(ソフトバンクグループの会長兼社長)孫正義さんの財団で研究されている方で、アプローチが非常にユニークなんですよ。プレゼンテーションでも熱心に話をされていましたけど、他の人のように『便利にしよう』ということではない研究をやろうとしているのがいいなあ、と思います」

 ―やはりテクノロジー系の話題は常に追っているのでしょうか。

 「いやいや、まあ興味があるニュースがあったりしたら調べるくらいですよ」

 ―テクノロジーというかコミュニケーションツールの話ですけど、ABEMAトーナメント(非公式の団体戦)のチームアカウントでツイッターにも初挑戦されて話題になっています。

 「いや~、まだまだ右も左も分かっていませんので、手探り状態です。若い世代の人たちがSNSを駆使するのは日常的なことですけど、私はあまり知らなかったので塩梅(あんばい)やアプローチは難しいです。しかし、文章を書くことを生業にしている記者さんにとっても難しい問題ですよね。これから書こうと思っていることを(取材対象者が)書いてしまいますから…。どうにもスピードが速いですよね」

 ―はい、かなり難しい問題です(笑い)。SNSなどもライフスタイルに変化をもたらしたのかもしれませんが、コロナ禍は完全に生活を変えています。

 「私自身、打ち合わせも取材もリモートが増えて、今まで移動時間に結構使ってたんだな~と分かりました。便利でラクなのはいいんですけど、切り替えが難しいですよね。例えば今日のような日は(パーティー会場に)来場すれば自然と切り替わりますけど、自宅では『今から1時間は仕事』がなかなか難しいです。そのあたりは試行錯誤ですよね。でも、将棋はあいさつをして対局が始まり、あいさつをして終わる。自然と区切りになっているんだなあ、ということに気付いた一年でもあります」

 ―一方、ペットのうさぎや愛犬と触れ合う時間は確実に長くなったようですよね。実に賑やかで楽しそうです。

 「ありがとうございます。でも…うさぎたちも家内(理恵夫人)のSNSでは一日中動き回って活動している印象ですけど、実はけっこう寝てます(笑い)。ずっと(回し車で)クルクル回っていたりしてないですよ(笑い)。たしかに賑やかではあるかもしれませんね。かわいいです。犬もたまに散歩に連れていきます」

 ―ステイホームが求められるコロナ禍が、ここに来てさらに長期化の様相を呈してきました。

 「先を予測するのは大事ですけど、考えすぎても当たらないので、ある程度は割り切ってやっていくしかないのかなと思います。もしかしたらワクチンの普及で一気に収束するかもしれませんし、次の冬が来ても今の状況が続いているかもしれません。考えすぎないことも大事だと思います。心理的につらくなるので」

 ―今日(7日)、祝福する里見女流名人について伺います。今回で女流名人12連覇ですが、王座19連覇を経験されている立場としてどのように映っているのでしょうか。

 「10代の頃から安定した力があったとはいえ、さすがに10数年も続けていたら好不調の波もあったとは思うんです。しかし、現在はもう里見さんならではのスタンスを確立されたのだろうなあ、と思います」

 ―若くして頂点を極めた場合、どのように自分をモチベイトしていけばいいのでしょうか。

 「もちろん将棋は相手との勝負でもありますけど、自分との闘いでもあります。いかにして前の自分よりも前進していけるか、進歩できるかという比較は里見さんも常にしていると思います。いつも具体的な課題を設定しているかどうかは分かりませんけど、きちんと納得できることをやっているのかどうか、ということは変わらないことなのかなと思います。どれだけ実績を積んでも、どれだけ勝ち続けても」

 ―女流タイトルを分け合っている西山朋佳女流三冠が奨励会を退会し、女流棋士に転向しました。里見女流名人、あるいは女流棋界への影響はどのようなものになるのでしょう。あと、西山女流三段の力をどのように見ているのでしょうか。

 「里見さんとの対戦が増えることで、女流棋界全体のレベルを上げてほしいですね。あ、いや、実際に既に上げていると思うんです。刺激を受けている人はたくさんいるだろうなあ、と思いますよ。西山さんは日によって違う不思議なタイプですよね。トップクラスの棋士を負かしてしまうこともあるし、今日はどうしちゃったのかな…という時も正直に言うとある。パフォーマンス的なことなのかメンタル的なところかは分からないですけど、だからこそ、これからの里見さんとの対局が楽しみになってきます」

 ―最後に今期の抱負を。昨年末の取材では、タイトル獲得通算100期への思いを珍しく明確に語っていただきました。

 「昨年の竜王戦では私の体調不良で対局を延期してしまい、皆さんに大きなご迷惑をお掛けしてしまいました。だからこそ、またタイトル戦の舞台に万全の状態で出られたらいいな、という気持ちはより強く持っています」

 ―「50代になったので、50代なりの将棋を」と語って半年が経過しますが、現状では若手との研究合戦でも真っ向勝負する、と意思表示をするような将棋を指されている印象を受けます。

 「全て受けて立つのは大変ですけど、全て避けるのは困難なので(研究量を)増やすことは続けていかないと、と思っています」

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【注1】2009年公開の米・メキシコ映画。ホンジュラスから米国を目指す列車に乗った少女サイラは強盗の少年カスペルと出会う。移民たちの過酷な現実と実在する暴力組織の冷徹を描いて世界中の映画祭で絶賛された。キャリー・ジョージ・フクナガ監督。

【注2】1994年公開の米映画。ティム・ロビンス主演、モーガン・フリーマン助演。終身刑に処された男の刑務所内での出会い、苦悩、不屈、希望を描く。あまりに美しいラストシーンが映画史に輝く不朽の名作。ミスターチルドレンの歌詞にも登場。フランク・ダラボン監督。

【注3】2020年、PHP新書。少年期から「ドラえもんをつくりたい」と夢見てロボット製作を始めた研究者による未来論。誰にも相手にされなかった夢を一歩ずつ近づいていく。最新AIを用いる一方、感情や心など「人間」を徹底的に研究する視点が面白い。

 ◆羽生 善治(はぶ・よしはる) 1970年9月27日、埼玉県所沢市生まれ、東京都八王子市育ち。50歳。6歳で将棋を始める。85年、史上3人目の中学生棋士に。96年、史上初の全七冠同時制覇。2017年、史上初の永世七冠に。19年、将棋界初の国民栄誉賞受賞。史上1位のタイトル獲得99期、・一般棋戦優勝45回・通算1482勝。座右の銘は「運命は勇者に微笑む」。チェスでも国内トッププレーヤー。家族は理恵夫人と2女。

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