ありがとう、田中邦衛さん―「北の国」富良野に訪れたファンの思い

「五郎の石の家」内に設置された献花台
「五郎の石の家」内に設置された献花台

 3月24日に俳優・田中邦衛さんが死去した。北海道民としてはやはり、ドラマ「北の国から」シリーズの黒板五郎の印象が強い。学生時代、誰かが緑色系のニット帽をかぶれば「ほぉたる、じゅぅん」とドラマを見たことない人までモノマネしていた。

 「北の国から」=五郎さん、だ。心の琴線に触れる脚本と演出、映画のようにこだわった北海道・富良野でのロケーションに加え、田中さんの熱演なくしてはドラマの人気はあり得なかった。ロケ地の富良野はかつての観光業は冬のスキーとへそ祭り。だがドラマの効果で知名度は一気に全国区に。地元の有志は田中さんへの感謝の思いとして、4月10日から17日までロケ施設で今は観光施設となっている「五郎の石の家」の屋内に献花台と記帳台を設置した。

 札幌から自動車で約2時間半、富良野の市街地に到着してからさらに約15キロ進んだ場所にロケセットが点在する麓郷地区がある。人里から離れ森林に囲まれたその一帯はまさに北海道らしい、そしてドラマの風景が広がる。あのテーマ曲が流れる中、ファンは密にならないように離れて行列を作り、1組ずつ屋内に入り初日は約1800人が手を合わせて別れを惜しんだ。

 観光協会では「五郎は今でもここに住んでいる」というメッセージを込めてストーブに火を着けて煙突から煙を出した。当初、家の周りは雪が積もり、一本道しかなかった。有志や協会が除雪作業をしたが、初日の直前に気温が上がり全て溶けた。もしかしたら大勢の来客に向けて田中さんの“おもてなし”だったかもしれない。

 札幌市出身で道内在住の家族3人に話を聞いた。44歳のお父さんは「『北の国から』は嫌いだったんですよ。田舎臭くて、親戚のおじさんがしゃべってるみたいで」。東京から離れた一家が自然あふれる田舎で暮らす―。本州の人には魅力あふれる設定だが、都会に憧れる道産子の若者は受け付けなかったかもしれない。

 だがこのお父さんは関東に住み、東日本大震災を経験して子どもが生まれ、北海道に戻ってきたことでドラマへの心境が変わった。「モノがあふれている世の中で自分の手で何でも作って子どもに見せる。親は子どもに何を残せるんだろう、人間らしく生きるってなんだろうって」。DVDも全部持っており今では人生のバイブルだという。「息子は8歳で年齢差がちょうど五郎さんと純くらいなんですよね」。作品を熱く語るお父さんの横でお母さんは田中さんを思い出して目を潤ませていた。

 作品が幕を閉じて約20年が経つ。今でも観光協会には「五郎さんは、あの家は、実際に作ることができないだろう」という熱いファンからの電話がかかってくるという。時代を超えた不朽の名作。静かな時間が流れる富良野で、田中さんと五郎さんは人生には何が大切か問いかけていた気がした。(北海道支局・西塚 祐司)

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