【谷井孝行の目】日の丸“歩”行隊、メダルラッシュ

スポーツ報知
東京五輪代表内定者

 東京五輪の陸上競技でメダルラッシュが期待されるのが、日本競歩勢だ。直近の2019年ドーハ世界陸上で、男子は20キロの山西利和(25)=愛知製鋼=、50キロの鈴木雄介(33)=富士通=が金メダルを独占。女子も2選手が入賞を果たした。15年北京世陸50キロで、日本競歩界で初の世界大会表彰台となる銅メダルに輝いたスポーツ報知評論家の谷井孝行氏(38)=自衛隊コーチ=が強化の歩み、自国開催の本大会への期待感、そして五輪内定7選手の魅力を語り尽くした。(取材・構成=細野 友司)

 1972年2月。札幌はスキージャンプ男子で冬季五輪表彰台を独占した“日の丸飛行隊”の活躍に沸いた。あれから約半世紀。今年の夏は、“日の丸歩行隊”がメダルラッシュで列島を勇気づける期待が膨らむ。

 「東京五輪は、聞いただけで鳥肌が立つようなプレッシャーも感じるだろうし、自分への期待も持つと思う。その中で、いかに実力を発揮できるメンタルを持てるかが大事。男子は20キロ、50キロともに金メダルを獲得し、3人全員が入賞することは十分可能だと思っています。当日の展開次第では、男子は1~3位を占める可能性も夢ではない。女子も力をつけて舞台に立ち、ベストパフォーマンスを出せばメダルが届く範囲にいると思いますね」

 15年北京世陸。日本競歩界に初の世界大会メダルをもたらし、大きな壁を破ったのが谷井氏だ。16年リオ五輪50キロでは荒井広宙が銅。日本はメダル常連国へ、着実に階段を上っている。

 「日本チームのメダル(獲得)の力自体は、2013年頃から備わっていたと思います。ただ、あと一歩の調整や、国際大会のレース展開に阻まれ、メダルは“壁”でした。僕のメダルで“壁”が崩れたと同時に、練習をともにしている仲間が表彰台に立ったことで、自分もいけると相乗効果が生まれたのも大きかったです」

 国際大会でなかなか結果を残せなかったが、実は日本競歩の歴史は古い。初めて五輪の舞台に立ったのは、戦前の1936年ベルリン大会50キロの奈良岡良二。前回の64年東京大会には斎藤和夫ら6選手が参戦。91年東京世界陸上50キロでは、今村文男(現・五輪強化コーチ)が世界大会初の7位入賞を果たして風穴をあけた。

 「競歩には長い歴史があって、その上で2001年にインターハイ(全国高校総体)の種目に入ったことで高校生の目標ができて競歩人口も増え、競い合いが生まれた。歩型の国際審判員を招へいしたり、イタリアなどで海外合宿を行ったり、さまざまな取り組みで一歩一歩階段を上ってきた土台がしっかりしているからこそ、僕のメダル1回で終わらず、連続して表彰台に立てていると思います」

 現在の黄金期を支える取り組みの一つが、年間100日以上に及ぶ代表合宿での緻密(ちみつ)な強化だ。競「歩」といっても、男子20キロなら1キロ3分50秒、50キロなら4分25秒ほどのペース。一般人のジョギングは1キロ6~7分ほど。走っても追いつくのが難しいほどのスピードを出しつつ、歩型を保って歩く必要がある。

 「僕もたまに市民マラソンに競歩で出ますが、たいてい真ん中よりは前の順位です。『速っ!』って言われるのが励みですね(笑い)。常に自分のフォームと向き合わないといけない競技なので、合宿でもタイムだけを追わずに、まずは技術を完成させるために自分の長所と短所を理解します。その上で、課題をフィジカル強化やストレッチなども利用して、改善していくわけです」

 20年度はコロナ禍で全体合宿はほぼできなかったが、例年は試合参戦も含めると月1回は代表選手同士が顔を合わせるペースだ。

 「情報共有をしながら、どこまでのレベルにいれば、どれくらいのことができる、という指標が身近にあるのは大きいかなと思います。所属の垣根を越えて強化し、日本代表になる=世界でメダルを目指せる位置にいる、という基盤ができています」

 充実の体制で迎える東京五輪。今後数十年、日本が絶頂期を保てるかどうかの出発点でもある。

 「東京五輪が日本で競歩の認知度を上げる起爆剤になってほしい。そして、東京の後も、五輪や世陸は続いていくわけです。今回代表に選ばれなかった選手も、東京に出た選手に追いつき、追い越そうという思いを未来にぶつけて、後の時代の主役になる。そんなチームになっていけば、さらに日本全体の力が増して、名実ともに競歩王国と呼ばれる国になるのではないか、と楽しみにしています」

 ◆競歩とは 「ベント・ニー」(接地で膝が曲がる)、「ロス・オブ・コンタクト」(両足が同時に浮く)の2つの違反がある。累積3度の警告で、ペナルティーゾーン待機(20キロなら2分、50キロは5分)。4度目は失格となる。技術的には、マラソンが膝をクッションにして走るのに対し、競歩はルール上、膝を伸ばすため、でん部や腰周りで衝撃を吸収して推進力を生む。接地も走りはつま先から入るが、競歩はかかとから。谷井氏は「上半身と下半身の連動は必須。でん部や太ももの筋肉で自分の体を支える力が不可欠になる」と解説した。

 ◆谷井 孝行(たにい・たかゆき)1983年2月14日、富山・滑川市生まれ。38歳。高岡向陵高―日大。五輪は2004年アテネ大会で初出場し、16年リオ大会まで4大会連続出場。14年仁川アジア大会50キロ金メダル、15年北京世陸50キロで銅メダル。19年2月に現役引退し、自衛隊で後進を指導。

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