向田真優、婚約者のコーチと金メダルへ…レスリング女子53キロ級 「ポスト吉田沙保里」の重圧乗り越える

スポーツ報知
東京五輪代表の向田(左)は金メダルを目指して婚約者の志土地コーチと練習に取り組む(カメラ・佐々木清勝)※撮影時のみマスクを外していますが、通常は着用しています

 レスリング女子53キロ級で東京五輪代表を決めている向田真優(23)=ジェイテクト=は、専属コーチで婚約者の志土地翔大(しどち・しょうた)氏(33)との二人三脚で金メダルへ向かう。53キロ級は引退した吉田沙保里さん(38)の階級で、同じ三重出身。「ポスト吉田」の重圧を2人で乗り越えていく。

(取材・構成=高木恵)

 ◆婚約者・志土地コーチが「米選手になりきって」スパー 「一生、一緒にいたい人と」 

 自分が信じた道を行く向田の表情は、明るくたくましかった。愛する人と同じ夢に向かって歩む日常は心強いものだ。

 「東京に来て、志土地コーチに見てもらえることになってから、毎日充実しています。東京五輪は1年延期になったけど、その間に足りないことの強化や最後の調整ができています。気づいたことを毎日言ってもらえるので助かります」

 愛知の至学館大を卒業後、昨年4月から拠点を東京に移した。母校の安部学院高と、ナショナルトレーニングセンターで練習を積む日々。婚約者の志土地氏が専属コーチだ。昨年の自粛期間中は2人で河川敷を走り、芝生の広場で打ち込みをした。

 「一人じゃ、シャドーしかできないですから。打ち込みをしていた分、マット練習を再開できるようになってからの感覚の戻りも早かったです。最近は、志土地コーチがライバルの北朝鮮や米国の選手になりきって、スパーリングの相手をしてくれます」

 2人が婚約したのは19年10月だった。大学レスリング部のコーチと学生の恋愛を問題視する声があったのは事実。向田が銀メダルを獲得し、五輪代表を決めた19年世界選手権後の9月、志土地コーチは大学に辞表を提出した。「五輪前に恋愛している場合か」。ネットの書き込みも目についた。

 「反対意見があるのも当然です。一生、一緒にいたいと思った人とこうして出会った以上は、レスリングも恋愛も両方大事にしたい。最初は(周囲の声が)気になっていたけど、今は気にならないです。きつかった時期に、はい上がることができたのは志土地コーチの支えがあったから。自分は支えがあった方が強くいられる。金メダルを取るためには支えが必要だし、支えがなかったら金メダルを取れないと思います」

 いろんな考え方があることは理解していた。「レスリングをやめよう」と悩んだこともあったが、2人で強くなることを選んだ。応援してくれる人々との出会いもあった。向田の所属先のジェイテクトが、コーチとして迎えてくれた。安部学院は練習拠点を提供してくれた。志土地コーチは感謝している。

 「本当に周りに支えてもらっています。僕の役割はパートナーとして、コーチとして、真優を支えることが一番。それが使命だと思っています。ダブルでしっかりと受け止めて、サポートさせていただいています」

 53キロ級は、吉田沙保里さんが五輪3連覇した階級だ。「ポスト吉田」の声に重圧を感じることは、もうなくなった。

 「すごい人すぎるので、沙保里さんは沙保里さん、自分は自分と考えるようにしています。東京五輪で、この階級で金メダルを取るチャンスは日本では自分にしかない。そのチャンスをしっかりものにしたいです」

 16年リオ五輪は練習パートナーとして現地に入り、吉田、登坂絵莉、伊調馨の相手を務めた。ウォーミングアップ会場で選手が醸し出す気迫は世界選手権とは比較にならないほどに、圧倒的だった。

 「すごかったですね、やっぱり。テレビで見るのと現地で見るのは全然違った。その経験を生かしたい。その時から『東京五輪は絶対に出る、絶対に出たい』って思っていました」

 五輪は向田家の夢でもあった。父・淳史さん(51)はブラジリアン柔術で全日本2位の実績を誇る格闘家。子供には格闘技をやらせたがっていた。レスリングスクールに連れられて行ったのは5歳の時だった。

 「想像していたスポーツと違って。器械体操に近いスポーツだと思っていたので『絶対、楽しいだろうなあ』って思って行ったら全然違って。取っ組み合いをさせられた(笑い)」

 父がレスリングに導いてくれていなければ、こうして五輪で金メダルを目指すこともなければ、志土地コーチとの出会いもなかったことになる。父の思いも背負って、マットに上がる覚悟はできている。

 「父は日体大時代に、カヌーのプレ五輪で8位だったんです。でも、五輪には行けなかった。五輪への強い思いがあって、それを娘に引き継いだんです。父がいなかったら、今のレスリング選手としての私はない」

 向田と志土地コーチは婚約当初から、婚姻届を提出するのは五輪後と決めていた。結婚も1年先延ばしになった。「2人で金メダル」という目標達成のために支え合う時間は、1年増えた。

 「正直、やっとだなって。楽しみでもあります。自分がずっと目指してきた場所なので。特にこの1年、しっかりと追い込んでこられたので、練習の成果を出して金メダルを取りたいです」

 ◆メンタル克服へ精神判定ソフト 

 試合終盤で逆転を許すなど、向田の最大の課題はメンタルだった。そこで、志土地コーチの助言で精神判定ソフト「メンタルチェッカー」を自宅に導入した。1分間、撮影することにより、被写体の精神状態を分析することができるというものだ。

 「自分では『きついな』と感じていても、数値を見ると実際はそんなことはなかったりする。客観的なものがある方がいいかなと思って」と志土地コーチ。向田は毎晩のようにカメラの前に座り、「ストレス」「安定性」「カリスマ性」など10項目をチェックする。基準値と照らし合わせながら精神状態を把握することで「プラスに考えられることが増えた」という。

 過去には減量に苦しむこともあったが、トレーニングの成果で筋量が増えたことで代謝が上がり、体重の増減の幅が減った。コーチは「いろいろと新しいことを取り入れて、それが今かみ合っている。大げさではなくて、全部良くなっている」。昨年2月以来の実戦となる4月のアジア選手権(13~18日、カザフスタン・アルマトイ)で、心技体の進化を試す。

 ◆向田 真優(むかいだ・まゆ)1997年6月22日、三重・四日市市生まれ。23歳。東京・安部学院高―至学館大卒。母と姉の影響で空手を習い始め、ブラジリアン柔術をしていた父の勧めで5歳でレスリングに転向。小学6年で全国少年少女選手権大会で4連覇を達成し、中学からJOCエリートアカデミーで腕を磨いた。五輪階級での世界選手権は2017年53キロ級で銀メダル。マスカットが好物で、試合後のご褒美にすることも。家族は両親と姉、弟。157センチ。

 ◆志土地 翔大(しどち・しょうた)1987年4月7日、熊本市生まれ。33歳。玉名工高―日体大卒。5歳でレスリングを始める。フリースタイル66キロ級で2007、08年全日本学生選手権2位。大学卒業後は総合格闘技に挑戦。戦績は2勝1敗。14年から19年まで至学館大レスリング部でコーチを務めた。172センチ、74キロ。

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