東日本大震災で津波被害に遭い、持ち主不明となった数々の写真を洗浄し、持ち主に返却する活動を行ってきた震災復興ボランティア団体のNPO法人「おもいでかえる」が、今月最後の「返却会」を行う。震災から10年がたち、得られる助成金が減ったことや、活動できる人の確保が難しくなったことなどが理由。洗浄した写真は30万~40万枚。まだ16万枚が返却できていない。「これから生きていく心の支えになる」と写真の力を信じてきた同団体理事・丹野ゆみさん(53)に思いを聞いた。(瀬戸 花音)
津波が去ったあと、がれきの中から出てきたのは思い出の詰まった多くの写真だった。「おもいでかえる」は、仙台市が2011年から始めた写真の返却活動に協力する形で12年3月に発足した団体だ。個人で写真洗浄ボランティアに参加していたメンバーもおり、「活動に携わっていくうちにこのままでは、と思い団体をつくったわけです」と丹野さんは話す。
「おもいでかえる」が洗浄した東日本大震災関連の写真は約30万~40万枚。写真を水で洗い、落ちきらなかった汚れをエタノールで落とし、乾燥させる。ひたすらこの作業を繰り返してきた。毎年市内の会場を借りて行う返却会には「何もないから何か一枚でも見つけたい」と失った写真を探しに多くの人が来場する。
「最初は見るのすら嫌だったけど…」。時がたってやっと、過去が映った写真と向き合えることもある。父親の写真を見つけ涙する人、高校生になった娘の赤ちゃんの頃の写真を見つけ笑顔で帰る人…。丹野さんは「だんだん新しい生活の場所が根付き、新しいコミュニティーができたのか、ご近所の人と一緒に探しにいらっしゃる方が増えた」と近年の返却会の様子を話す。
その返却会も3月14日の宮城野区文化センターで最後になる。「助成金も直接被災者と触れ合うような助成対象が多くなってきていて、私たちの活動は助成金対象になるのか難しいところ」と丹野さんは資金繰りのめどが立たない厳しい現状を明かした。人材の確保も難しくなってきており、活動継続は困難だと判断した。
まだ返却されずに残る写真は約16万枚。来年度からは仙台市が活動を引き継ぐ。同市では返却会を行わなくてもパソコンなどから写真を探せるシステムをつくる予定だ。
「写真一枚でもそれにまつわる思い出がたくさんあって、それは持ち主の方しか分からない。これから生きていく心の支えになるのでは」。丹野さんは写真が持つ力を信じている。「活動としては終わりを迎えますが。みなさん笑顔で過ごされれば…それが一番です」
今後は西日本豪雨などで被害を受けた人から預かっている写真の洗浄活動を、もう少し続けていくつもりだ。
「おもいでかえる」が17年度から受けてきた「みやぎ地域復興支援助成金」は来年度から形を変える。20年度では対象事業を「地域資源を活用しながら被災地域の地域課題の解決を目指す事業」または「被災者を対象としたボランティア活動等被災者支援に特化する事業」としていたが、21年度は「被災者の生活再建に向けて、直接支援を行う事業」に対象を絞る。
県の担当者は「10年たち対象としてきた一部の事業が被災由来の活動から平常時の活動へ移行してきている。財源が積立金のため今後いつまで続けられるかというのもあり、対象事業を被災者支援により特化する形になった」と説明した。
◆おもいでかえる 2012年3月に発足した団体。14年3月からは任意団体から特定非営利活動法人に。現在約5人の会員とボランティアで活動。東日本大震災で被害に遭った写真の他、西日本豪雨など自然災害で被害に遭った写真の洗浄活動を行っている。個人からの依頼の問い合わせも受け付けている。