「Zoom時代に生きるということ」マリナーズ球団社長、48時間の辞職劇に思う

米シアトルのマリナーズ本拠地T-モバイルパーク
米シアトルのマリナーズ本拠地T-モバイルパーク

 「なぜ、わざわざこんなことを発言する必要があったのか?」

 誰もが耳を疑うような大失言をした映像が、2週間も経った後にYouTubeで炎上し、翌日には辞職に追い込まれた元シアトル・マリナーズ球団社長兼CEO、ケビン・マザー氏。25年も同球団に勤めた同氏のスピード辞職は、まさに2021年という時代を物語るような出来事だった。

 問題となったZoom会見の映像がネットで大炎上する直前、マリナーズ担当の私の元に東京のデスクから「この噂の背景わかりますか?」と電話があった。そのとき私はまだ映像を観ていなかったので、「ただの噂じゃないですか? 球団の社長ともあろう人が、そんなバカげたことを公の場で言うわけないですよ。もし言ったらアメリカでは即日解雇ですから」と笑って電話を切った。

 しかし、それから48時間もたたないうちに解雇劇、いや辞職劇は現実となり、彼はもう球団を去った。たぶん、米球界には永遠に戻って来られないだろう。まるでハリウッド映画のように素早い展開だった。

 大炎上の当日である22日(日本時間23日)には、スタントン球団会長が謝罪会見を開き、翌23日(日本時間24日)には、ゼネラルマネジャーのジェリー・デポト氏と、スコット・サービス監督がそれぞれ記者会見を開いて、自分たちの考え方はマザー氏とはまったく異なること、彼の発言をどれほど恥ずかしく思っているかなどを記者団に切実に語り、マザー氏に代わってファンや選手たちに懸命に謝罪した。

 ご存知のように問題のYouTube映像はすぐに削除されたので観ることはできないが、マザー氏が何を言ったのか、その一字一句を書き起こした何ページにも及ぶトランスクリプトが地元シアトルを代表する『シアトルタイムス』紙に掲載され、そのトランスクリプトが再び方々に拡散された。YouTube映像を見損ねた私も、そのトランスクリプトは全文読んだが、「よくもまあ、こんなに酷いことをペラペラとZoomで話したものだ」と心底驚いた。「もしや、泥酔していたのでは?」とも考えてみたが、あのスピーチは朝食の会合だった。どう考えても球団社長が朝から泥酔するはずはないので、そうなると「本当にそう思ったから発言した」ということになる。

 一体、何が彼にあんなことをわざわざ公の場で発言させたのか、当然ながら私にはわからない。でも、もしかしたら当の本人も何が引き金になってあの失言をしたのかは、わからなくなっていたのかも知れない。話しているうちに拍車が掛かって止まらなくなる「スピーチ・ハイ」というものがあるそうだが、もしや、トランス状態にでも陥っていたのだろうか? いや、球団社長たる人が、Clubhouse(流行りの音声SNSアプリ)で夢中で話している人たちでもあるまいし、そんなことでハイになる可能性は低そうなので、ますます訳がわからない。

 Zoom会議は録画できる。そんなことは、オンライン会議をやったことがない人でも知っているだろう。そして、そこで録画された映像ファイルは外部へ出そうと思えば簡単に流出させられる。会議の参加規約や人々の正しい常識があるから、わざわざいちいちファイルを外部に流出させないだけで、情報漏れのセキュリティー観点からすると危ういツールであることは間違いない。

 私たちは、Zoomの時代を生きている。だからこそ国境を超えて遠隔取材がライブでできるようになり、情報の時差もなくなり、言葉の壁さえもなくなりつつある。それを知ったうえで、人々はオンラインでさまざまなことを発言する。そして、その発言が、それを言った人の人生も、言われた人の人生も一瞬にして変えてしまうこともある。今回の辞職劇は、そんな時代を象徴する出来事だった。(秋野未知=スポーツ報知マリナーズ通信員)

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