蛯名騎手の「去り際の美学」 決意を胸に新たなステージへ

蛯名正義騎手
蛯名正義騎手

 「引退の美学」とは―。記録にも記憶にも残る蛯名正義騎手(51)=美浦・フリー=が、2月28日で34年の騎手生活にピリオドを打ち、調教師に転身する。「最後」へのカウントダウンに入っても茨城・美浦トレーニングセンターで黙々と馬に乗る姿はいつもと変わらない。21日の小倉でも今年初勝利を挙げ、勝負への執念も決して変わらない。「まだ、乗れるのに残念」の声は多くの関係者から聞かれた。では、なぜ辞めるのか?

 本人が胸の内にある思いを紡ぎ出した。調教師転身は、「はじめは頭になかった」と話すが、「小島太調教師(GI・3勝のマンハッタンカフェなどを管理)が引退(18年定年)して、二ノ宮敬宇調教師(エルコンドルパサー、ナカヤマフェスタなどを管理)が、勇退(18年)して、馬主さんから、どうなの? と聞かれたりするようになってからだね。騎手でボロボロになって切り替えてやるのでは失礼だし、自分も納得しないと思う。やるからにはしっかりやらないと。ジョッキーと同じ、勝たないととね。エネルギーがあるうちにやりたいと思った」。ともに馬への情熱を共有し、戦い、その生き様を見せ続けてくれた先輩たちの思いも込みで、新たなステージに身を投じる決意に変えた。

 34年の騎手生活。JRA・G1・26勝を挙げ、世界最高峰のレース、凱旋門賞では、エルコンドルパサー、ナカヤマフェスタで2着に入った。今ほど世界を身近に感じられない時代で、世界を身近に引き寄せた1人。残した功績は、日本競馬界が誇るものだ。技術はもちろん、体力、気力もトップを維持できるものは今でも持ち合わせている。それでも、騎手として築き上げた立場を捨ててまで、勝ちにこだわる勝負師として余力を残して次にいく。やり続ける美学もあるが、潔く引く。ここに蛯名騎手の「去り際の美学」がある。

 「騎手になりたくて入った世界」と話し、もちろん、葛藤はあると思う。ただ、自身は決して立ち止まってはいない。最近、今話題の音声SNS「Clubhouse」を始めたという。コロナ禍にあってファンとつながり、情報を発信するツールの1つとして新たに取り入れた。調教師になってもそれは続けて発信していくという。「無観客だからファンの人とどこかで集える場所があったらなと思って始めた。ちょっとずつ発信できればと思っている。ある程度、時代に乗っていかないと老けてきちゃうから。良いところもあるし、悪いところもあると思うけど、良いところを出せればいいと思う。でも、炎上しちゃうかなぁ」と笑うが、物事を見極めながら新たなものを取り入れる柔軟さ。トップに君臨し続ける理由の1つだろう。

 蛯名騎手から蛯名調教師へ、終わりは始まりでもある。立場は変わるが、「また何かやってくれるのかな」。今度は調教師としての美学を追究していくのだろう。寂しさもあるが、やっぱり期待感の方が大きい。いつまでもそう思わせてくれる存在だ。(中央競馬担当・松末守司)

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