芥川賞・宇佐見りんさん、鼻で書く「空気感をつかんで作品に落とし込むために」

「これを書けてよかったなと思えるものを完成させたい」と夢を話した宇佐見りんさん(河出書房新社提供)
「これを書けてよかったなと思えるものを完成させたい」と夢を話した宇佐見りんさん(河出書房新社提供)
推し、燃ゆ
推し、燃ゆ

 第164回芥川賞(日本文学振興会主催)を「推し、燃ゆ」(河出書房新社、1540円)で受賞した宇佐見りんさん(21)は現役大学生だ。受賞作ではアイドルを“推す”(応援する)という文化を描いた。書くことは「使命」だと話し、史上3番目の若さでの受賞にも「勘違いしたらいけない」と冷静に受け止めている宇佐見さん。その人柄に迫った。

 「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」

 応援する“推し”アイドルがSNS上で炎上するさまをセンセーショナルに表現した一文から始まる物語。書いた作者は、現役の大学2年生だ。受賞後、生活はがらりと変わったという。

 「もともと話すのが得意なほうではないので、『大丈夫? 記事になる?』って気持ちで毎回受けています。まとまって話すことができないから、毎回申し訳ない気持ちと闘いつつ」。そう言って宇佐見さんは、はにかんだ。

 「書くことでしか掘り当てられない一つの真実みたいなものがあって、楽しいって一概に言えることではないんですけど、それを使命のように思っているというか。これをやってれば間違いないんだなっていう確信があるという感じです」

 一言一言考えながら、丁寧に言葉を紡ぐ。21歳のその姿は時に“初々しい”と表現される。しかし、宇佐見さん自身は「若さに振り回されないように」と冷静だ。

 「自分は決して若いのに書けてるということではない。勘違いしたらいけないし、先人の作品を読んでいると、むしろ焦りみたいなものもあるんです」

 “推し”という文化やSNSが、自然に純文学と交ざり合った受賞作は、宇佐見さんの世代だから描けた世界だ。

 「中学生ぐらいの子から突然ツイッターで感想が届いたり、年齢が上の方からも、娘の気持ちがわかったという感想があったりしました」

 純文学は読まないがSNSは使う同世代と、“推し”文化はよく分からないが、純文学は読む上の世代が共有できる作品となった。

 自身もSNSは人並みには使うと話すが、最近話題の音声SNS「クラブハウス」については「私、アンドロイドなんですよ。もうついてけない」。そんな宇佐見さんがよく見るのは、もっぱらYouTubeだ。ハマっているチャンネルもある。

 「魚さばくやつ…『気まぐれクック』とか…分かりますか? 巨大イカで塩辛をつくるとか、自分ではやらないけど気になる。絶対生臭いでしょとか思いながら」

 YouTubeを見ながら匂いを感じる。この感覚は、宇佐見さんが小説を書く上で欠かせないものだ。

 「私は結構、鼻を頼りに書いている部分があって、空気感をつかんで作品に落とし込むために重要なんです」

 だから、鼻が詰まれば作品は書けなくなるという。「ソムリエになろうかな」とおどけてみせるが、匂いで作品を描くことの困難もある。

 「匂いって保存する手立てがなくて。それに味とか色を表現する言葉っていっぱいあるんですけど、匂いを表現する言葉ってあんまりない。書いてる時に困るなって」

 独特の感性を持ちながら、どこにでもいる大学生のように社会になじんだ印象も持ち合わせる宇佐見さん。

 「将来もできる限りは兼業でいきたいんです。自分をちゃんと動かして、肉体の限界というものを知りながら。小説家だとちょっと浮世離れしたイメージがどこか自分の中にあるから、もっと直接的に社会に関われる仕事に就けるといいなあ、とは思ってます」(瀬戸 花音)

 ◆「推し、燃ゆ」 アイドルグループ「まざま座」のメンバー上野真幸の活動を追い、“推す”(応援する)ことを中心として生きる主人公の女子高生・あかり。“推し”である上野がファンを殴りSNS上で炎上したことをきっかけに生活の歯車が少しずつ狂い始める。“推し”の存在があるから生きていけると信じてやまない少女の、リアルな生きざまを描く。

 ◆宇佐見 りん(うさみ・りん)1999年5月16日、静岡県生まれ。神奈川県育ち。21歳。現在、国文学を専攻する大学2年生。中学、高校時代は演劇部に所属。2019年に「かか」で第56回文藝賞を受賞しデビュー。20年に同作で三島由紀夫賞を史上最年少で受賞した。

「これを書けてよかったなと思えるものを完成させたい」と夢を話した宇佐見りんさん(河出書房新社提供)
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