“森チルドレン”橋本聖子新会長は東京五輪開催へ機運を醸成できるのか

就任挨拶をする東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長〈代表撮影)
就任挨拶をする東京五輪・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長〈代表撮影)

 政府筋が望んだという“若い女性”が東京五輪・パラリンピック組織委員会のトップに立った。

 女性蔑視ととれる発言によって辞任した森喜朗組織委前会長の後任として、橋本聖子前五輪相が新会長に就任した。18日の会見では「身が引き締まる思い。大会の成功へ全力で邁進(まいしん)する」と所信表明を行った。

 印象的だったのは「私のミッションは国民にも参加者にも安全最優先の大会を実現して、アスリートが迷うことなくこの夢舞台に立てるように今の社会の空気を変えていくこと」という元アスリートらしい言葉だった。

 後任会長の座を巡っては、候補者として橋本氏の他に組織委スポーツディレクターの小谷実可子氏、日本オリンピック委員会の山下泰裕会長らの名前が上がったとみられる。“政府推し”の橋本氏、“小池百合子都知事推し”の小谷氏、“組織委推し”の山下氏などとも報じられ、さながら五輪を巡る権力闘争の様相を呈した。橋本氏は当初から難色を示していたため、様々な報道が入り乱れた。

 会見での「直前まで非常に悩んだ」という言葉には、実感が込もっていた。その一因は、14年ソチ五輪でのフィギュアスケート男子代表・高橋大輔に対するセクハラ騒動だろう。家族を抱える橋本氏にとって、騒動の再燃は大きな不安だったはずだ。

 橋本氏は「7年前の軽率な行動を、当時も今も深く反省している」と謝罪し、いい訳しなかった。厳しい表情からは、マスク越しにもある種の覚悟が見て取れた。だが今回の一件で海外メディアにも拡散されることとなり、当時報じた週刊誌は会見当日発売号でも騒動を蒸し返すような記事を掲載した。

 夏冬7度の五輪出場、日本スケート連盟会長を始め、多くの競技団体の要職を歴任。さらに五輪選手団団長、JOC強化本部長も女性として初めて務めた橋本氏を森氏の後任として「適任」と支持する声は多い。IOCのトーマス・バッハ会長や山下会長は「最適な人選」と歓迎。森氏から後任の打診を受けたが辞退することになった組織委評議員で元日本サッカー協会会長の川淵三郎氏も「誰もが望む人が就任し、良かったと思う」との談話を発表した。

 五輪開催まであと5か月。新会長を待ち受ける難題は山積している。最も重大な案件は、大会開催可否の判断だろう。聖火リレーのスタートが来月25日に迫っている。最終的な決定はIOCが下すとされているが、リレー開始までにヤマ場を迎えるのではとの見方もある。

 またリレーに関しては、島根県知事が県内での開催中止を検討すると表明。こうした動きは他県に飛び火する可能性もあり、組織委としても適切な対応が求められる。五輪が開催されるならば、観客の有無の判断も急務だ。同時に新型コロナに対するさらなる具体策を打ち出さなくてはならない。

 そうした難局を乗り越えるには、IOC、政府、東京都との緊密な連携は欠かせない。長らく自民党議員として活動してきた橋本氏には政府側に傾いてしまうのではないかとの指摘もある。会見では「疑念が持たれない行動を取る。国には左右されない」と決意を示したが、政治的中立性の観点から野党に批判され翌日離党届を提出した。

 一方、小池都知事は19日、新会長について問われると「昨日、IOCの皆さんにメールも打ったんですけど、彼女は“アイアン・レディー”だと申し上げた」。英国初の女性首相サッチャー氏のニックネームを用いて表現。「長年の友人であり、アスリートとして世界的に見ても希有な存在。尊敬されるべき」と持ち上げた。

 だが、ここにも一つの懸念がある。橋本氏が「大変特別な存在」と慕い、政界の師と仰ぐ森前会長だ。その師との今後については「正していく部分と継承する部分を区別したい」としたが、その大役を果たしていく上で少なからず師の力を頼らざるを得ない局面が訪れるだろう。森氏は小池氏と“犬猿の仲”で知られ、その関係は十数年に渡るとも言われる。そうした“板挟み”の中で、橋本氏は迅速かつ円滑に多くの難しい判断を迫られるのだ。

 東京五輪・パラリンピックを巡っては、新国立競技場建設計画の白紙撤回騒動に始まり、エンブレム問題、招致疑惑、マラソン・競歩開催地移転など混乱が絶えなかった。そして、今回の組織委新会長人事についても「密室人事」「政府介入」などと批判が相次いだ。これまで複数のメディアが行った五輪開催に関するアンケートでは、否定的な意見が概ね70%以上を占めている。新型コロナの世界的な拡大も重なり、大会への機運が醸成(じょうせい)される気配は乏しい。

 そうした状況で「社会の空気を変えていく」と宣言した橋本新会長。そのミッションは限りなくインポッシブルかもしれない。だが、もう後戻りは許されない。これまでスポーツ界や政界で「女性初」の歴史を紡いできた“五輪の申し子”が、どんな舵取りを見せるのか。五輪の未来が、託された。

(記者コラム 江畑 康二郎)

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