筒井康隆さん、作家生活61年目の思い「長篇はもう書きません、と言うか、書けなくなりました」…単独インタビュー<3>

最新短編集「ジャックポット」について大いに語った筒井康隆さん(C)新潮社写真部
最新短編集「ジャックポット」について大いに語った筒井康隆さん(C)新潮社写真部

 今年で作家デビュー61年目を迎えた筒井康隆さん(86)の最新作「ジャックポット」(新潮社刊)が17日、刊行された。収録された14本の短編は、言葉の洪水が続く超実験小説「漸然山脈」や自身が20歳だった時からの時代をノスタルジックに振り返る「一九五五年二十歳」など話題作がずらり。中でも出版前から大きな話題となっていたのが、昨年2月に食道がんのため急逝した長男で画家の筒井伸輔さん(享年51)への思いをつづった私小説的作品「川のほとり」。日本文学界の巨星が熱狂的ファン「ツツイスト」待望の新刊に込めた思いを聞いた。(構成・中村 健吾)

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 今回の短編集に収録された「蒙霧升降(ふかききりまとう)」「一九五五年二十歳」の2編は筒井さん自身のこれまでの人生回顧にも読める作品だ。多くの熟年読者が懐かしさとともに読む逸品だが、この2作品への思い。執筆時の心持ちを聞いた。

 「前者は『群像』からタイトルを与えられて、後者は『野性時代』から二十歳の時のことを書いてくれという依頼で書いたもので、どちらも特集(何人かの作家に書かせる)であったと思います。『蒙霧升降』は(元東大総長、文藝評論家の)蓮實重彦氏との対談でつい民主主義嫌いの本音をもらしたので、そこからの連想で書きました」

 筒井流小説論にも読める作品「ニューシネマ『バブルの塔』」のラストでは多くの「優秀な詐欺のメンバー」として町田康氏、島田雅彦氏ら73人の作家の名前を列挙している。この方たちこそ「厳選された」筒井さんの認めた後継者であり、「本物の作家」と評価していると捉えていいのか。選ばれなかった作家含め文学界で大いに反響を呼びそうな記述だが、そこに込めた思いを聞いた。

 「私は作家というのは本質的に詐欺師だと思っています。川上弘美が『なぜ堀江敏幸の名がないのか』と質問したので、彼と大江健三郎は詐欺師ではないと思うので省いたと言ったところ、『そう思わせるところが詐欺でしょう』と言われてしまいました(笑)」

 新型コロナ禍の日々をモチーフとした「ジャックポット」を激動の2020年という1年と並走しながら書いた理由が気になった。作品中、コロナへの恐怖感を率直に記しているが、筒井さん自身の中にコロナ禍の社会への絶望感があるのか。後半(ウイズ・コロナ編)をまるで終末SFのように描いた狙いについては、伸輔さんの死について聞いた時、こう話していた。

 「小生、正直の話、あまりコロナを恐怖してはおりません。この年の一番の出来事はやはり筒井伸輔の死であり、それに比べたらコロナは『大当りの年』の添え物みたいに思っています。怖がっているように書いたのはあくまで小説だからです」

 大のファンで知られる自身のジャズ音楽史をモチーフにした作品「ダンシングオールナイト」は途中までは本当に楽しそうに書かれていながら、最後はコロナの影が色濃く出てくる。そうした作品構成に至った思いも聞いた。

 「この作品はジャズとダンスというわが青春の記録です。コロナのことを書いたのはまさにダンスが濃密接触だからであり、最近踊る機会がなくなったことをコロナにからめて語っております」

 2015年の「モナドの領域」刊行の際、「わが最高傑作にして、おそらくは最後の長篇」という言葉があった。「ジャックポット」を読む限り、作品執筆への「凄み」はさらにパワーアップしているようにしか見えない。多くの「ツツイスト」が、まだまだ筒井作品を待望している中、さらなる長編執筆への意欲、今後の作品構想はどのくらい、あるのだろう―。

 「長篇はもう書きません、と言うか、書けなくなりました。この短篇集は、短篇としては長いめのものばかりですが、それすらももう書けなくなり、十枚前後の掌篇ばかり書いております。次は掌篇集ということになりますが、それには今回の短篇集に収録した『花魁櫛』と『川のほとり』も入れてもらおうと思っています。果して一冊になるやらどうやら」―。

 作家デビュー61年目を迎えた日本文学界の巨星は淡々と言葉を続けた。

 ◆筒井 康隆(つつい・やすたか) 1934年(昭和9年)9月24日、大阪市生まれ。86歳。同志社大文学部卒業後の60年、家族で発行した同人誌「NULL」から短編「お助け」が江戸川乱歩によって「宝石」に転載され、作家デビュー。65年、処女作品集「東海道戦争」を刊行。SF第一世代として「48億の妄想」、「霊長類 南へ」など話題作を書き続ける一方、ジョブナイル「時をかける少女」、実験小説「虚人たち」、「残像に口紅を」など純文学分野でも最重要作家となる。「虚人たち」で泉鏡花文学賞、「夢の木坂分岐点」で谷崎潤一郎賞、「ヨッパ谷への降下」で川端康成賞、「朝のガスパール」で日本SF大賞、「わたしのグランパ」で読売文学賞など受賞多数。「ツツイスト」と呼ばれる多くのファンを持つ。「富豪刑事」、「パプリカ」など映像化作品も多数。アンソロジスト、劇作家、ホリプロ所属の俳優としても活躍している。

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