麒麟ロスに朗報 歌舞伎版「明智光秀」は尾上菊之助が親友・長谷川博己に資料譲り受け挑む「彼に見に来てほしい」…国立劇場3月

武智光秀のふん装姿を披露した尾上菊之助。2幕目で見せる紫紺の衣装
武智光秀のふん装姿を披露した尾上菊之助。2幕目で見せる紫紺の衣装

 近年、成長著しい尾上菊之助(43)が、東京・国立劇場3月公演「時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)」(中村吉右衛門監修、4~27日)で、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」で話題になった戦国武将、明智光秀(武智光秀)役に挑む。こちらは4世鶴屋南北により200年以上も前から上演されてきた歌舞伎の名作のひとつ。菊之助にとって「憧れの役」だったという。大河で光秀を好演した長谷川博己(43)とも公私に親しく、「ぜひ見に来てほしい」と話す。(内野 小百美)

 「時今也―」は、分かりやすくいえば“歌舞伎版・麒麟がくる”。しかし、こちらは江戸時代(1808年初演)から上演され続けてきた歌舞伎の名作。「本能寺の変」に至るまでの過程が次の3幕に分けて描かれる。

 序幕 饗(きょう)応の場(眉間割)

 2幕目 本能寺馬盥(ばだらい)の場

 大詰 愛宕山連歌の場

 菊之助は、演目と配役が決まって、長谷川に連絡したという。同じ年齢でもある2人は、蜷川幸雄演出「わが魂は輝く水なり 源平北越流誌」(2008年)で共演している。「以来、長谷川君とはお付き合いさせてもらっています。歌舞伎を見に来てくれたり、こちらも仕事や演技のことで相談したり。(光秀の)資料を何か貸してもらえないか、と聞くと『全部あげるよ』とありがたい言葉で。ぜひ見に来てほしいと思っています」

  • 大詰で死装束姿に
  • 大詰で死装束姿に

 光秀(歌舞伎では実名を使用できず武智光秀)を持ち役とする菊之助の義父、吉右衛門が監修という点にも注目だ。「心の内面をえぐり出すような岳父の演技に感動して憧れ、ぜひやってみたかった」といい、「光秀は忠節心を持ってひらすら耐えて信長様に最後までお仕えするつもりだったと思う。でもその気持ちが変わってしまう。演じる上での“心”を一番大事にしたい」

 この数年、菊之助の進境は著しい。若手女形の筆頭格として歩んできたが、「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」(2017年)、宮崎駿作「風の谷のナウシカ」(19年)と壮大な新作歌舞伎に取り組んできた。作品の大小に関係なく小さな準備もおろそかにしない姿勢に変わりはない。今回、仕事の合間に光秀を理解するため、東京・目白の永青文庫で開催されていた「新・明智光秀論―細川と明智 信長を支えた武将たち―」を訪れていた。

 そこにはそれぞれの自筆も展示され、役作りのヒントを得た。「信長の字は豪快で派手派手しい。光秀の文字は特徴がないというか。読みやすさ、分かりやすさを考えて書かれのだと思えた。まじめで実直に物事を進めるタイプ。戦乱の時代は信長のような人物がリーダーシップをとってガンガンやっていかないとまとまらなかったでしょう。僕は光秀に似たタイプかもしれません」

  • この1年を振り返った菊之助
  • この1年を振り返った菊之助

 いま「明智光秀」が注目される理由として、コロナ禍で晴れない人々の精神状態を物語っている、とも考える。「日本だけでなく世界全体が我慢を強いられ、堪え忍んでいる。そんなことも反映しているのではないでしょうか」

 ちょうど1年前になる。昨年3月も国立劇場(小劇場)だった。「義経千本桜」の忠信、知盛、権太の“3役完演”に思いを高ぶらせていた。ところが、新型コロナの影響は劇場を襲い、公演中止に。まさかこれが1年も続くと、このとき、どれほどの人が想像できただろう。1年前は記録映像用に無観客の状態で1度演じることのみ許された。

 「いろいろ振り返ると、いま劇場を開けさせていただいている状態だけでもありがたいこと。1つおきの席でも切符を買って見に来てくださる。歌舞伎を愛し、支えてくださっている人がいることを常に思い、精いっぱいのことをさせていただきたい」

 昨年12月「日本振袖始」(歌舞伎座)では、コロナの濃厚接触者と認定され、一時休演した坂東玉三郎(70)の代役も勤めた。“主役”にアクシデントが起きようと、代役を立てて乗り切るのが歌舞伎のすごいところだ。

 「玉三郎のお兄さんのお出になられない気持ちは察するに余りある。代役のご指名をいただいたありがたさと緊張感。お客様のご要望にどこまで応えられたかは分かりません。でも戻ってこられ『代わってくれてありがとう』と言われたとき、もっともっと真剣に歌舞伎に励まなければ、と思えた。やっぱり、自分には歌舞伎しかない、ということが分かったんです」。人生を深く見つめ、自問自答する1年だった。3月の菊之助の光秀は、これらの覚悟も詰まったものとなるだろう。

 ■亀蔵案内役で作品を解説

 ○…3月公演は「歌舞伎名作入門」として上演され、開演前に片岡亀蔵(59)が案内役となり、約20分間、作品に関する解説がつく。例年、学校から多くの生徒が訪れる「歌舞伎鑑賞教室」も行ってきたが、「大人の方も気軽に楽しんでもらえるために」(菊之助)。なお織田信長(小田春永)役は坂東彦三郎(44)が演じ、中村又五郎(64)、中村梅枝(33)らが共演。上演時間は解説、休憩時間を含めて約2時間半を予定。

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