「言葉の人」ノムさんが見せた1面への執念…番記者にも用いた「ささやき戦術」

09年、激動のシーズンを送った野村克也監督。CS第1ステージ第2戦では本塁打を放った山崎武司と抱擁した
09年、激動のシーズンを送った野村克也監督。CS第1ステージ第2戦では本塁打を放った山崎武司と抱擁した

 「ささやき戦術」といえば、名捕手だった野村克也さんが現役時代に用いた得意技である。

 打席に立った強打者に対して「銀座の〇〇ちゃんが寂しがってたぞ」と話しかける。打者の心理を揺さぶり、攻略の糸口を見つけていく。ユーモアを愛した知将ならではの作戦だった。

 私も楽天担当時代、この戦術にハマった経験がある。

 * * *

 2009年9月26日、敵地・所沢で行われた4位・西武とのマッチアップ。このとき、楽天は3位だった。球団創設5年目で初のCS進出を見据え、チームには活力がみなぎっていた。

 デーゲームのこの日は4回までに4点ビハインドの劣勢だったが、セギノール、リンデン、中谷と球団史上初となる3者連続本塁打で反撃ののろしを上げ、一挙5点と劇的に大逆転。7~9番打者の3者連続弾はプロ野球史上2度目の快挙だった。

 CS進出マジック「8」が点灯し、2位・ソフトバンクとは0・5差に迫った。試合後の一塁側ベンチ裏、野村監督はゴキゲンだった。

 「御の字です。いつもあいさつをしない『アンチ野村』のリンデンが、打った後に帰ってきて『ナントカ!』ってオレに怒っているんだ。本当に怒っているなら明日から抹消。監督批判もいいところ。侮辱罪だ。そしたら全然違って『ガンガン行こうぜ!』だってさ。明日から4番だな」

 勝ちボヤキを存分に聞き、囲み取材の輪が解けたところで、知将は私の顔を見るなり言った。

 「まさか報知の1面はないやろ。明日、楽しみにしているぞ」

 エッ!? ハ、ハイ…。

 * * *

 さかのぼること数か月前、野村監督が「報知の1面」についての持論を展開してくれたことがあった。

 「オレにとっては『報知の1面イコール巨人』だよ。他(のスポーツ紙)で1面は飾れても、報知はなかなか難しい。だからこそ価値があるんだ」

 言葉の端々には永遠の宿敵・ジャイアンツへの消えることのないライバル心がほとばしっていた。

 さて、どうしよう。まずはデスクに報告だ。

 「ノムさんがお前にそう言ってんのか…。面白いな。これから夕方の立ち会い(編集会議)に入る。ちょっと待ってくれ」

 20分経過。ガラケーから聞こえるデスクの声は弾んでいた。

 「1面で行く。熱い原稿、頼むぞ」

 * * *

  • 09年9月27日のスポーツ報知1面
  • 09年9月27日のスポーツ報知1面

 翌日付の紙面は今でも大事に取ってある。

 「ノムさんたまげた3連発」

 脇には、こんな見出しが入っている。

 「『まさか』の1面です!!」

 翌朝、西武ドームで「入り待ち」した時のことを思い出す。私の顔を見つけると、知将はニヤリと笑い、言った。

 「読んだぞ。オレよりもカカアが喜んでいたよ」

 * * *

 2月11日、一周忌。

 あらためて「言葉の人」だったのだと思う。

 時にはストレートに、時には変化球気味に繰り出されるひと言に、野球を愛する人々は喜び、笑い、考えた。

 野村克也とともに生きた日々の幸福をかみしめるとともに、この1年、不在に慣れることができなかった、心の空白を実感する。

 同じような人々は決して少なくないはずだ。だからこそ、これからも野村監督について書き続けたい。野村克也に思いを致すきっかけを、作っていきたい。

 それこそが、「戦術」に翻弄された記者の責務であると信じて。

 (デジタル編集デスク・加藤弘士)

09年、激動のシーズンを送った野村克也監督。CS第1ステージ第2戦では本塁打を放った山崎武司と抱擁した
09年9月27日のスポーツ報知1面
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