将棋の第47期岡田美術館杯女流名人戦五番勝負の第3局(主催=報知新聞社・日本将棋連盟・出雲市、特別協賛=(株)ユニバーサルエンターテインメント)が7日、千葉県野田市の関根名人記念館で行われ、後手の里見香奈女流名人(28)=清麗、女流王位、倉敷藤花=が106手で挑戦者の加藤桃子女流三段(25)に勝ち、3連勝で防衛、12連覇を達成した。タイトル通算獲得数も43となり、清水市代女流七段(52)が持つ女流史上最多記録に並んだ。棋史に名を刻んだ里見は「純粋に将棋が好き。これからも楽しみながら向き合いたい」と自然体で語った。
偉業達成後の対局室。撮影用に渡された駒形ボードには、初めて女流名人になった17歳当時の写真が貼られていた。あれから11年。里見が積み重ねたタイトルの数は「43」に達した。「好きなことをさせていただいているので、勝負とは別に楽しむ気持ちを持って、これからも将棋と向き合えたらと思います」
節目の一局で採用したのは、後手番での宝刀「ゴキゲン中飛車」。序盤は加藤の趣向を受け止め、中盤は一手の疑問手もなく乗り切り、気づけば自然に勝勢になっていた。「自分の棋風に合った指し方を選び、神経は使いましたけど読み切れたと思います」。最強の挑戦者を迎えたシリーズだったが、「課題を突き付けられて苦労しましたけど、それも楽しめました」。最後まで横綱相撲を貫き、鮮やかに3連勝で終えた。
尊敬する清水女流七段が40歳の時に達成した通算獲得タイトル「43」に、28歳で並んだ。「当時と比べると女流棋戦も増え、清水さんと比較することはできません。でも、清水さんのような人間性を持つまで成長したいです。もちろん技術面も磨きながら」
初獲得から唯一、失っていないタイトルが女流名人だ。五番勝負の通算勝率・818(36勝8敗)は、女流公式戦通算勝率・746(293勝100敗)を上回る。「いろんなシリーズがありましたけど、精神的に強くしていただいた棋戦だと思います」。仮に17歳当時の自分と戦えば、どのくらいの勝率を残せるか、と聞いた。「全て落とさずに勝ち切りたい。昔の弱い自分には負けたくないです。自分は変わったので」
西山朋佳女流王座(25)に挑んだ昨秋の五番勝負は、第5局の終盤で信じられないミスを犯して敗れ去った。以前なら尾を引いていた痛恨の黒星。しかし、もろく崩れる里見は今はいない。「痛い敗戦もありましたけど、最善を尽くして負けたらしょうがないです。最終盤のハラハラドキドキは苦痛であり楽しみでもありますね」
空前の将棋ブームの中で、ずっと思っていることがある。「今期は藤井(聡太)二冠や(竜王に挑戦した)羽生(善治九段)先生の活躍もありましたけど、もっと女流棋界も注目していただけるように」。12連覇を果たした女流名人には、第一人者の確かな自覚がある。(北野 新太)