ポニーキャニオンは昨年、「色あせない音楽を追究し、多くのリスナーに発信する」ための新レーベル「IRORI Records」を設立した。人気バンド・Official髭男dismと共に新レーベルに所属しているのが、シンガー・ソングライターの澤部渡(33)がギターとボーカルを務めるソロプロジェクト「スカート」だ。今年は俳優デビューも決定。音楽活動11周年を迎え、活動の幅をさらに広げていく。(水野 佑紀)
昨年6月、ポニーキャニオンが後世に残す音楽を発信するために設立した「IRORI RECORDS」。発足時のメンバーとして白羽の矢が立ったのが髭男、そしてスカートの2バンドだ。「ありがたい。でも、どうなってんだって思っていますよ」。澤部は知名度の差に思わず苦笑いした。
今はまだ知る人ぞ知る存在だ。キャッチフレーズは「不健康ポップバンド」。100キロを優に超える見た目と、そこからは想像できない繊細な声、それに爽やかなメロディーが心地いい。16年に人気バンド・スピッツのシングル「みなと」で口笛を担当したことでスポットが当たり、翌年メジャーデビュー。女優・高畑充希が主演したテレビ東京系連ドラ「忘却のサチコ」(18年)の主題歌などを担当。知名度も徐々に上がってきた。
スカートの音楽観は、普遍性を求めるレーベルの理念に似ている。例えば、CDに対する価値観。「ビートルズの『Let it be』を聴くと、『いい曲だな』と思うと同時に、彼らのビジュアルも思い浮かべると思うんですよね。人間って聴覚だけだと記憶に残りにくい。CD化することで触覚と視覚が加わる」。最新アルバム「アナザー・ストーリー」は、プラスチックケース・フィルム・盤面・歌詞カードの4つの絵柄が重なり1枚の絵になるこだわりのジャケットを展開。視覚にも触覚にも印象に残る一枚に仕上がった。
節目の音楽活動10周年の昨年はコロナ禍で迎えた。9月の周年ライブは座席数を減らして何とか開催にこぎつけたが、コロナ以外でもショックな出来事が起きた。互いに高め合った知人が急逝。「10~11月は一番気持ち的にしんどかったですね。普通は4~5年後どうなるんだろうと頭を抱えますが、今回は2週間後どうなるんだろうとか、ちょっとしたことが見通せないのが一番つらかった」。味わったことがない失意に打ちのめされたが、今は「試されている気がしますね」と前を向けるようになった。
今年はミュージカル「消えちゃう病とタイムバンカー」(4月6~25日、東京芸術劇場プレイハウス)で俳優デビューが決定。新曲も制作中だという。「年始、友達に言ったのは、『今年売れなかったら痩せる』と。スタッフLINEには『3月までに5曲を作ります』って宣言しました」。新曲をヒットさせるか、痩せるか究極の2択―。自らを奮い立たせ、この一年に臨む。
◆語尾まで柔らか…取材後記
常に穏やかだ。言葉遣いも丁寧で、「~ですね」と語尾にまで柔らかさを漂わせる。スカートの世界観を保つために採算度外視のジャケット写真を「いい感じにできました!」と快く受け入れるスタッフに恵まれるのも、彼の人柄のたまものに感じる。
4月にはミュージカルに出演し、演技に初挑戦。たくましい体格の俳優は、こわもてや特有の圧迫感を生かす人も多いため、澤部の優しい雰囲気は唯一無二の武器になる。所属するカクバリズムは俳優・アーティストとしても活躍する浜野謙太らを輩出し、土壌は整っている。芝居でも躍進を目にする日は近そうだ。
◆澤部 渡(さわべ・わたる)1987年12月6日、東京都板橋区生まれ。33歳。2006年からスカート名義でソロ活動をスタート。由来については、以前のインタビューで「女性に対しての憧れがあったけど、女になりたいというわけでもなかったので、スカートと名乗る分ぐらいならいいだろう、と」と明かしている。18年、映画「恋は雨上がりのように」の劇中音楽に参加。20年、箱根駅伝を中継する日本テレビのサッポロビールのCMに「駆ける」が起用された。