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40歳まで第一線で活躍した憲剛を「体の隅々まで分かっていた」と先輩トレーナーの長尾氏…ありがとう中村憲剛「14」の物語―2021年元日 川崎フロンターレを引退―

スポーツ報知
自主トレを行う中村憲剛氏(上)と長尾友紀氏(下)

 J1川崎フロンターレのMF中村憲剛(40)が2021年1月1日の天皇杯決勝で18年の現役生活を終えた。憲剛と関わった人たちに、それぞれの憲剛を語ってもらう連載の第6回は久留米高校(現東久留米総合高校)の先輩で、自主トレを含む年間で調整を手伝っていたトレーナーの長尾友紀氏(46)。あまり知られておらず、今回の引退を機に特別に登場して頂いた。「体の隅々まで分かっている」など憲剛の繊細な感覚を明かした。(取材・構成 羽田 智之)

■中大生から突然の連絡

 憲剛と最初に会ったのは彼が高校生の時です。僕が久留米高校サッカー部のトレーナーをやっており、そこで知り合いました。ただ、当時はトップチームを見ていなかったので、夏以降にトップチームに上がった憲剛との接点はそれほどありませんでしたし、卒業後も交流はなかったです。

 彼が中大サッカー部の時、一度、寮で施術したことがあります。どうして僕に依頼したのかは分からなかったですが、ほかの学生も見て欲しいということでした。おそらく、私が憲剛の代の子たちが作った杉並ソシオフットボールクラブでトレーナーをやっているので、そのつながりで連絡をくれたんだと思います。

■ボルタリング、ヨガも

 シーズン前の自主トレは11年とか12年ぐらいから手伝うようになりました。だんだん年齢が上がり、やらないといけないよねと思ったそうです。基本的に、憲剛はキツクやるのは大嫌いな人なんです(笑)。例えば、ランニングを40分やろうかと言うと、「えーっ、走るのだけは嫌いだし」となる。その代わり、色々な事をやりたがる。ボルタリング、ヨガなんかもやりました。

 自主トレといっても、フロンターレのキャンプ前に少し体を動かしておこうかという感じです。キャンプの出だしで筋肉痛にならない程度。そんなノリです。鍛えるのは、フロンターレにしっかりしたトレーナーの方がいるので、僕はノータッチ。筋トレもしたことなかったです。何事もなくシーズンを過ごせる体の調整を心がけていました。彼はフロンターレのトレーナーさんに気を使って僕の存在を表には出さなかったですし、僕もそれで全然良かった。

■衰えない筋肉、柔軟性

 憲剛の体は若い時からほとんど変わらなかったです。年齢を重ねると、柔軟性、筋力は落ちてくるんですが、触っていて、衰えたなと感じることがありませんでした。筋肉が硬くなったり、張りがなくなったりというのがなかった。唯一変わったのは一昨年の大けがの後ですね。復帰に向けて、筋トレをやったので、現役一番のムキムキになっていました(中村憲剛は19年11月2日の広島戦で左膝前十字靭帯を損傷。翌20年8月29日の清水戦で約10か月ぶりに公式戦復帰し、J1歴代2位となる16年連続得点も記録した)。

 それぐらい、彼は筋トレするのが好きでは無かったです。やってはいたんですが、最低限しかやらないと言っていました。昔から体が小さく、フィジカルでは負けてしまう。ポジショニングを意識し、考えてプレーしてきたので、フィジカルで勝つための筋肉はいらないという発想だったんでしょうね。

 自分の体をよく知っています。隅々まで分かっている。「足首が硬くなっているけど、どうもふくらはぎが張っている、腰が張っている感じがして、そこからきているような気がするんです」。そんな事を言ってきたりします。だいたい当たっている。そんな事を言う人はいない。その感覚はすごいなと感心します。

 彼に、あれやれ、これやれとか言ったことは、ほとんどないです。憲剛自身がやることを理解していた。ストレッチなど体の手入れは毎日、念入りにやっていた。自分でしっかり時間を取って、決して怠ることはなかった。特別なことはやってないですが、そういう日々の積み重ねが40歳まで現役を続けられたんだと思います。僕は、彼がやれないところをやる。それは、体だけじゃなく、メンタルに関しても。家族のケアもしたりして、気持ちよくサッカーをしてもらおうと心がけました。

■やれば出来ると示した

 引退を伝えられた時は、あぁそうなんだ、というぐらいにしか思えなくて。シーズン中だったのもあり、実感があまりわかなかったです。僕は彼あっての存在ですから引き留める理由もない。もちろん、一ファンとしてもっとプレーを見たかったですが、中村憲剛との付き合いは続くので、次が楽しみにもなりました。

 高校時代から憲剛は体の線も細く、足も遅かった。全然アスリートではありませんでした。こういう子がプロになったのは本当にすごい。どんな子でもやれば出来るということを示したと思います。トレーナーとして、僕を選んでくれたことに感謝しています。プロサッカー選手をみる経験はそんなに出来ることではないです。ましてやMVPをとる選手。そういう経験が出来たのは感謝しかないです。

 ◆母校・東久留米総合高校のトレーナーも務める

 〇…長尾氏は現在、杉並ソシオフットボールクラブと母校の東久留米総合高校のトレーナーを務めている。整体、鍼灸などの往診も行っているが、ホームページなどはなく、知り合いの紹介や口コミを通じてになるという。

◆取材後記

 私は08年から10年まで川崎を担当し、憲剛との付き合いは13年になる。自主トレに誘われたこともある。それでも長尾さんの存在は謎のままだった。一緒にやっている人がいることは何となく知っていたが、憲剛から積極的に話そうとせず、はぐらかしていたこともある。それは、「フロンターレには優秀なトレーナーがいる。自分が他の人と一緒に自主トレをやっていることが記事になったら、どう思うだろうか」と配慮していたからだった。

 今回、無理を言って長尾さんを紹介してもらった。憲剛の知られざる一面を紹介したいということもあるが、私も知りたかった。一昨年、前十字靭帯損傷の再建手術を受けた後、お見舞いに行くと、彼は長男の龍剛くんにストレッチの大事さを説き、決められた時間にやりなさいとアドバイスしていた。その光景が印象的で、40歳まで第一線で活躍できた理由の一つを知るには、自主トレを一緒にしていた人に話を聞くのもありだなと思ったからだった。快く取材に応じてくださった長尾さん、憲剛に感謝します。

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