「ターニングポイントと革新のターン」 屋敷伸之九段、ボートレースを語る

ボートレースへの熱い思いを語った屋敷九段
ボートレースへの熱い思いを語った屋敷九段

 将棋の屋敷伸之九段(49)は棋界随一のボートレース愛好家として知られる。一般ファンのレベルではなく、公益社団法人日本モーターボート選手会の外部理事も務めてもいる。かつて弱冠18歳でタイトルを獲得し、現在もトップ棋士として活躍する男。初めて語り尽くしたボートレース論には将棋と多くの共通点があった。(北野 新太)

 たしか22、23歳の頃だったと思います。ふとテレビでボートのダイジェスト番組を見ていて、疾走するスピード感に惹かれたんです。同じ頃、スポーツ雑誌「Number」でボートレースの記事…たしか女子選手だったと思いますけど…を読んだりして興味を持つようになりました。

  • 屋敷九段がリスペクトする松井繁選手
  • 屋敷九段がリスペクトする松井繁選手

 レースを理解するまでには時間が掛かりましたけど、展開を考えるのが本当に面白くて。熾烈なインの奪い合い。いかにアウトを攻めるか。まくるか差すか。考える面白さは将棋とすごく似ていると思います。

 好きが高じて(ボートレース場のある)平和島に住んでいた時期もあって、時間がある時は現場に行ってレースを見ていました。舟券は楽しみ程度に買っていたくらいですけど。

 独身時代は不摂生の極みで、お酒もたくさん飲みました。将棋でそんなに勝てなくても、あんまり体のことを心配しないような生活をしていて。自己管理はできていないし、勉強不足だし、準備には失敗するし。お酒をたしなむのもいいことだと思いますけど、将棋に影響するようではダメですよね。

  • 51歳にして現役第一線で活躍する松井繁選手
  • 51歳にして現役第一線で活躍する松井繁選手

 30代後半になって、松井繁選手の自己管理や競技への姿勢を見習いたいと思うようになりました。30年以上もトップレーサーで在り続ける偉大な絶対王者で、将棋界で言えば羽生善治さんのような存在です。

 松井選手を通して、選手寿命とは何かを考えたんです。棋士の選手寿命はすごく長くて、指すだけなら長い期間できるけど、トップレベルを目指すにはどうすればいいか。少しずつ変わっていこうと思ったんです。息子が生まれたこともありましたけど。お酒も全く飲まなくなりました。

 依頼を頂いた時は信じられない思いでしたけど、縁あって日本モーターボート選手会の外部理事をさせていただいて8年になります。ボート界と将棋界は本当に似ているんです。年齢構成、人数構成、性別を問わずに戦っていること。若手が強いのは当然ですけど、ベテランが真摯(しんし)に競技に取り組むことで若手と争っている。70代でも、すごいレースを見せる選手もいます。選手会会長の上瀧和則選手も、現役で今もレースに出ておられる。日本将棋連盟会長の佐藤康光さんが今も活躍していることと似ていますよね。

 昨年6月、45歳の徳増秀樹選手が初めてSG(9つある最高峰のレース)を制した時は、思わず前年の王位戦で46歳の木村一基さんが史上最年長で初タイトルを獲得したことと重ね合わさずにはいられませんでした。ずっと強くて、頂点に近かったけど届かなかった姿を多くのファンがずっと応援していた選手だったので。

 技術革新の面でも、AIによって大きく変化した近年の将棋界の変化との共通点がボート界にはあります。特にターンの技術。90年代に「モンキーターン」が生まれて、すぐに常識になっていきましたが、現在のトップ選手のターンはさらに進化しています。人間の技術でこんなことが可能なのか…というくらい半端じゃないんです。ボートの旋回半径、直線への浮き上がり…。究極としか言いようがありません。「え!? 何コレ!?」と言いたくなるターンを若手が見せれば、ベテランも対応していく。羽生世代の将棋を見ている感覚に近いです。

 女子選手も活躍していて、報知さんの「女流名人戦」のようなレースももちろんありますけど、男子選手と競わせても勝ちます。オールスターでも上位で選ばれたり。そんなところも将棋界と近いです。

 あまりボートレース場に足を運べなくなり、舟券を買うこともほとんどなくなりましたけど、レースは少しずつでも毎日のように見ています。選手の方が実戦解説をしたり、発信される言葉から心構えを学んだり。ユーチューブも見ます。

 他にもボートレース好きの棋士はいますよ。村田顕弘六段は詳しくて、一緒にイベントをさせてもらったりもします。最近、村田さんは「ボートレース」という詰将棋作品も発表して。4列並んだ香車が王将を詰ますためにグルッと旋回していく50手以上の問題で、作品としても素晴らしいんです。ちょっとたまげましたね(笑)。【談】

  • 西山女流三冠に勝利後、感想戦に臨む屋敷九段
  • 西山女流三冠に勝利後、感想戦に臨む屋敷九段

 屋敷は27日、第92期棋聖戦2次予選決勝・西山朋佳女流三冠(25)戦に臨み、圧巻の内容で完勝した。

 中盤を過ぎる頃、超スピードの「屋敷流ターン」で一気にリードを奪い、水しぶきを上げながらゴールまで一気に疾走したような将棋だった。

 西山にとって、勝利すると女性初の公式戦(男性棋戦)本戦進出となっていた一番。棋士に5連勝して勝ち上がってきた女流三冠の挑戦を受ければ、普通は重圧が掛かるはずだが、局後の屋敷は「いやいや、西山さんはもう各棋戦で結果を残していますから、強い若手と指すという気持ちだけで、特別なことは考えませんでした」と笑顔を見せた。

 どんな勝負でも、常に屋敷のメンタルは安定しているように映る。自己管理、準備。ボートレースから学んだことを実践しているのだろう。「もちろん対策も立てて臨みましたので」。穏やかに語る様子には「不動心」という言葉が似合った。

 ◆屋敷 伸之(やしき・のぶゆき)1972年1月18日、札幌市生まれ。49歳。五十嵐豊一九段門下。88年、四段(棋士)昇段。90年、棋聖戦で中原誠棋聖から初タイトルを獲得。18歳6か月での獲得は、2020年に17歳11か月の藤井聡太棋聖に破られるまで史上最年少記録だった。天才肌の居飛車党。得意戦法のひとつに「屋敷流二枚銀」がある。異名は「オバケ屋敷」「忍者屋敷」。通算1325戦799勝526敗(勝率・603)。将棋栄誉敢闘賞を贈られる通算800勝に残り1勝に迫っている。

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