巨人の桑田真澄投手チーフコーチ補佐(52)が27日、スポーツ報知のインタビューに応じた。2008年に現役引退し、ついに指導者として現場復帰。日本一奪回を目指すチームで、先発完投型投手の育成と、球種を減らす案を明かした。また、春季キャンプでは傾斜で1000球以上の投げ込みプランを掲げ、目的意識を持って練習する大切さを説いた。(取材・構成=星野和明、玉寄穂波)
◆経験と研究をフル活用
今月12日に誕生した桑田投手チーフコーチ補佐。15年ぶりにユニホームを着て、古巣・巨人のグラウンドに戻る。
「僕の経験と研究してきたことをフルに活用して、原監督のもと日本一になれるように頑張っていきたい」
現役引退後はスポーツ報知の評論家として活動するなど、外から巨人を見てきた。理想に挙げる投手陣改革の1つ目は「先発完投型」の投手育成。昨季完投したのは菅野の3完投と畠の1完投だ。
「理想は左2人、右2人の4人。菅野君がいて、外国人ピッチャー(サンチェス)で6枚そろう。『いい時は最後までいきますよ』っていう頼もしい先発を作りたい。若いうちに投げないでいつ投げるんですかね。終わってしまうよ。もう」
理想は中6日なら9回135球。その真意とは―。
「1イニング15球×9イニングという計算。120も130も140も変わらないよ。中6日空けてるから、僕は135球は投げてもらいたい。(中6日で)5、6回で降りるようでは先発の責任は果たせていないと思う」
昨年の巨人の先発投手陣の平均球数は約93球。菅野でも平均は108・85球で、130球以上投げた試合は2試合だけだった。
「(投手陣の平均球数を聞き)うそでしょ…。平均で135球は難しいと思うけど、100球いってないんですか。そういう情報は選手もすごく納得すると思う」
◆マウンドの傾斜を制せ
2つ目は「球種を減らす」―。同コーチが現役の時でも「言われたことはない」という異例の“指示”。近年は変化球の種類も増え、新球に取り組む投手が多いが―。その意図は。
「増やした方がいい選手もいるが、今の時代の投手は球種が多すぎる。5つ6つもあるけど全部平均点以下、使えないよねって。小手先で1回抑えられても2巡目は絶対捕まる。じゃあ、絞ってそれを平均点以上にしたら試合でも使える、というふうにしたい」
では、春季キャンプではどのような練習プランを描いているのか。
「僕が調べたのは2月のキャンプの球数。1か所打撃での登板、紅白戦、立ち投げも含めての全部の計算で、1000球投げている人もいるけど、去年、戸郷は600球ぐらいしか投げていない。先発をやりたいなら2月のキャンプは1000球以上は投げましょうと。宮本投手チーフコーチにも話をしました」
ただボールを投げて良し、ではない。試合同様に傾斜を使うことが重要と説く。
「ピッチャーと野手はプレーする環境が違う。ピッチャーは傾斜を制しないといい投手になれない。平地でいいボール投げても意味がない。傾斜で30球、50%の力で山なりのボールでもいい。マウンドから投げられないんだったらリハビリ組に行ってください。そういうふうにやっていきたい」
全体練習後の個別練習でブルペンに入る投手にも苦言を呈す。
「(理由を)聞くと、『マスコミ、首脳陣が見ているしファンも見ているから』って。そこでできないやつは1軍では使えないよ。プレッシャーのかかる試合でいいピッチングできるわけない。いらないよってね」
◆20~25歳は体で覚えろ
桑田コーチはかつて、故障防止のための球数制限など意見を述べてきたが、それはプロへ向けての言葉ではない。
「鉄は熱いうちに打てってよく言うじゃないですか。それは小中高校生じゃなく、20~25歳の間。学童、学生野球の成長期での走り込み投げ込みはダメだって言っているんです。だから、20歳から25歳の選手は体で覚えてもらいたい。去年はランニングも球数も少ない。選手たちには『えぇっ』て言われるかもしれないが、僕は投げさせたいし、走らせたい」
◆ブルペンで実戦想定を
桑田コーチのキャンプでの練習プランは、ただ、がむしゃらに投げろ、走れ、というわけではない。明確な考えがあってこそだ。
「2月の走り込みは8月の暑い時期に生きていくんだって。そんなバカなことはない(笑い)。18歳の時から思っていました。根拠が分からないね。それよりも毎日バランスよく練習して、栄養とって睡眠をとってほしい」
現役引退後は、早大大学院や東大大学院にも通った。フォーム研究や動作解析に注力し、スポーツ科学の研究も積極的に行ってきた。学んだ知識をフル回転させ、選手に指導する覚悟だ。
「今は寝てる時に筋肉が再生して強くなることが分かってるんです。技術も寝ている時に神経が覚えているらしいんですよ。練習も大事だけど、栄養も大事で睡眠も大事。だから朝から晩まで練習したらダメなんです。うまくなるには栄養と睡眠も大切ということも伝えていきたい」
選手には考える力を大切にしてほしいと願う。
「例えば、今日50球投げるのであれば、どういう50球ですか?と。高めだけ投げます。インサイドとアウトサイドの投げ分けをします。アウトローだけボールのストライクの出し入れをします、とか。目的意識は何ですか?ということをはっきりさせてやってもらいたい」
試合を想定し、目的意識を持って練習をすることが試合にもつながる。
「試合ってそうでしょう。ボールから入ろうと思ってアウトローの直球のサインが出ました。ボールから入ろうと思ったらシュート回転して甘く入り、カーンと打たれる。(実戦想定を)練習、ブルペンでやっておかないと。頭の中は見えないけど、いいピッチャーはやっているんです。ブルペンでできない人は試合はできない」
ブルペンを制すこと。目的意識を持って練習すること。この2つができた時、桑田コーチが理想に掲げる1イニング15球につながると考えている。(後編は28日掲載予定)