【評伝】ビンのキャップ打ちが原点のアーロンさん…実はプロに入るまで、クロスハンドでバットを握っていた

アトランタ・ブレーブスのハンク・アーロンのバッティング
アトランタ・ブレーブスのハンク・アーロンのバッティング

 大リーグのブレーブスなどで活躍し、歴代2位の通算755本塁打、歴代最多の2297打点を誇る伝説の強打者ハンク・アーロン氏が22日(日本時間23日)に死去した。86歳だった。

 腕っ節の強さで“ハマリング・ハンク”(ハンマーで叩くような豪快なスイング)と言われたアーロンさん。少年時代から黒人差別を受け続けながら「黒人の場合、白人選手よりもはるかに優れていなければならない」をモットーに練習を重ね、体型も維持し続けての野球人生だった。

 アラバマ州モービルの貧しい家庭に育った少年の遊びはビンのキャップをほうきの柄で打つ遊び。多くのスラッガーは後ろ足に体重をかけて打つがアーロンは前足に体重をかけて、打つ瞬間に力を集中する。この遊びで身につけたバッティングが755本塁打という記録を生むことになった。

 1951年、17歳で当時まだあったニグロリーグのインディアナポリス・クラウンズと契約。強肩強打が売りの遊撃手だったが、ここで少年時代から続けていた左手を上にしてバットを握っていた(クロスハンド)のを普通の右打者のように矯正、より好打を連発。前から定評があったリストの強さで大リーグのチームから注目されるようになった。

 翌年2か月もしないうちに当時ボストンに本拠を置いていたブレーブスと契約した。ニグロリーグ、ブレーブスともに先輩の選手の怪我によってチャンスを掴んだ。中でも1954年のキャンプで、ジャイアンツから獲得した大物打ちのボビー・トムソン外野手が足を骨折。そこで左翼のポジションが空いて、開幕からスターティングメンバーに名を連ねるようになった。

 彼にとって幸いな事はもう一つあった。同年9月5日にスライディングで左足首を骨折。その怪我もあって兵役はオフシーズンだけとなり、他の選手のようにキャリアが短くなることもなかったのだ。

 翌1955年、「5」だった背番号変更を申し出て「44」になってから、オールスタークラスの選手にのし上がっていった。ハイライトは1957年だ。この年、ブレーブスは快進撃を続け、迎えた9月23日カージナルス戦、延長11回に9年ぶりのリーグ優勝を決めるサヨナラ2ラン。同年のMVPに輝くと、ヤンキースとのワールドシリーズでも3本塁打含む3割9分3厘、球団43年ぶりのワールドチャンピオンに大きく貢献した。

 当時のメジャーの最高の外野手とされていたのが通算660本塁打を放ったウイリー・メイズ。彼の数字を抜きさることを念頭に節制を重ね1972年に本塁打数で抜くと、次に待っていたのはベーブ・ルースの本塁打記録714本。

 39歳の1973年に40本打ってあと1本にまで迫った。このカウントダウンで、米国内で一代関心事になる一方、多くの白人崇拝者からの脅迫状が山のように届けられ、警備員がつく事態となった。たとえばこうだ。「よく聞け。ブラックボーイ。黒人のベーブ・ルースなんていらないんだ」「記録を破ったのが黒人だなんて、どうやって子供たちに伝えたらいいんでしょう」等々。何千、何万もの手紙が送りつけられたが、若い時から黒人差別を受け続けていたアーロンの闘志に火が付いた。脅迫状の最も多い消印はルースが在籍していたヤンキースの本拠地ニューヨークからだったという。

 1974年開幕の敵地でのレッズ戦で714号を放って並ぶと本拠アトランタに戻った4月8日の4回2死一塁、左腕アル・ダウニングから豪快にスイングすると、左翼ブルペンに飛び込んだ。5万2778人の超満員のファンで埋まったスタジアムが揺れた。試合は5分間中断、花火が上がって世紀の瞬間を祝福した。試合後、これでトップに立ったね、と聞かれ「最高の選手はジョー・ディマジオ、アーロンは3番目くらいかな」と軽口を叩いた。

 その年オフにかつてプレーしたミルウォーキーに本拠を置くブルワーズにDHとして移籍。22本を加え現役を引退。当時としては珍しい30本塁打30盗塁をマークし、ゴールドグラブも3度受賞するなど、今で言う5ツールプレーヤーでありながら、シーズン100三振が1度もなかった。

 その後はブレーブスの副会長として活躍、イベントだけでなく王さんとの世界少年野球など、野球の普及のためにアンバサダー(大使)として球界を見守っていた。

(蛭間 豊章=ベースボール・アナリスト)

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