ステイホームの時間を生かした現役女子大生作家・宇佐見りんさん…コロナ禍の芥川賞を史上3番目の若さで受賞

受賞作「推し、燃ゆ」を手に芥川賞受賞会見で笑顔を見せる宇佐見りんさん
受賞作「推し、燃ゆ」を手に芥川賞受賞会見で笑顔を見せる宇佐見りんさん
受賞会見でソーシャルディスタンスを保った形で記念撮影に応じる芥川賞受賞の宇佐見りんさん(右)と直木賞受賞の西條奈加さん
受賞会見でソーシャルディスタンスを保った形で記念撮影に応じる芥川賞受賞の宇佐見りんさん(右)と直木賞受賞の西條奈加さん

 86年の歴史を誇る伝統の文学賞が新型コロナウイルスの感染再拡大の中、今年も特別な形で行われた。

 20日、東京・築地の料亭「新喜楽」で行われた第164回芥川賞・直木賞の選考会。緊急事態宣言の緊張感が漂う中、毎回取材している私も昨年7月の第163回に続いて「新喜楽」での取材は断念。東京・帝国ホテルに用意されたリモート会見場で受賞者の発表と選考委員の会見を待つ味気ない形を余儀なくされた。

 今回、9人の芥川賞選考委員も半数が「新喜楽」に足を運ばず、リモートでの選考会出席となった。そして、各社3人までに絞られ、帝国ホテルの広大な宴会場に用意された長机に1人と、完璧にソーシャルディスタンスが保たれた会場で結果を待ち構えた約50人の記者たちの前に受賞者の名前が貼り出されたのは午後5時のことだった。

 芥川賞に選ばれたのが、これがデビュー2作目の宇佐見りんさん(21)の「推し、燃ゆ」。現在、某大学文学部国文学科の2年生。21歳8か月での受賞は2004年に同時受賞した綿矢りささん(当時19歳11か月)と金原ひとみさん(同20歳5か月)に次いで、芥川賞としては史上3番目に若い受賞となった。

 選考委員を代表して「新喜楽」からオンラインで会見に臨んだ島田雅彦さん(59)は「宇佐見さんがダントツ(の評価)でした。乗代雄介さんとの2人受賞を推す方もいて2度目の投票をしましたが、歴然とした差がついてしまった」と宇佐見さんが圧倒的支持を集めたことを明かした。

 さらにアイドルを推すことに人生を懸ける女子高生と炎上する推しメンバーを描いた作品内容についても「ポジティブ、ネガティブ、どちらの意味でも文学的偏差値が高い。一見、刹那的に繰り出していくように見える言葉が非常に良く吟味されている。センスがいいということです」とほめたたえた。

 今回、宇佐見さん、「母影(おもかげ)」の尾崎世界観(36)、木崎みつ子氏(29)の「コンジュジ」、砂川文次氏(30)の「小隊」、乗代雄介氏(34)の「旅する練習」の5作品が候補入り。砂川氏、乗代氏は2回目の候補入りで、ほかの3人は初のノミネートだった。

 2019年に母と娘の愛憎を描いた「かか」で文芸賞を受賞し、作家デビュー。20年、同作で三島由紀夫賞を史上最年少の21歳で受賞という宇佐見さんの経歴こそ知っていたが、正直に書くと、“推し候補”は個人的に大ファンのロックバンド「クリープハイプ」のフロントマン・尾崎。宇佐見さんにとっては失礼千万な話だが、受賞会見で尾崎にする質問まで用意していた。

 そんな「とにかく、著名人の受賞で記事を派手にしたい」という下世話な記者の思惑など吹っ飛ばすほど、受賞会見に登場した宇佐見さんは初々しかった。

 「まだ、受賞の知らせをいただいてからそんなに時間がたってなくて胸いっぱいです。まだ、頭が追いついていない感じです。とてもうれしいです」と緊張し切った表情で話すと、「私にとっては小説が背骨。決して大げさではなくて、これがあるからやっていけるんだという感覚。これからもその感覚は変わらないんじゃないかと思います。全力で書いていきたいです」と真剣な表情で続けた。

 「中上健次さんが好きで卒論も彼について調べて書いていきたいと思っています」と話した女子大生作家は史上3番目の若さでの受賞について聞かれると、「もっと長い目というか…。自分としても、まさか21で、自分の予定よりも早く…。あっ、不遜な言い方になっちゃいました? とても信じられない気持ちなんですけど、まだ至らない部分は、若さゆえなのか、自分の力が至らないからかはわからないけれど、すごく感じています」と答えた。

 そして、宇佐見さんと同じ大学2年生の子供を持つ私の心を大いに揺さぶったのが、「新型コロナ禍で大学に通えない日々が続いていますが、執筆への影響は?」という質問に対する答えだった。

 「ずっと、在宅(オンライン授業)ですが、私自身が外に行けないから息が詰まるなとか考えるよりも、もっと大変な方がいらっしゃるから…」と真摯(しんし)に答えると、作品執筆についても「できれば、実際に足で出向きたいと、いつも思っています。ただ、飲食店の描写をするにしても、記憶から出すのではなくて、実際に行って、ずっと描写のスケッチをするのが重要になると思う。影響がないわけではないですね」と答えた宇佐見さん。

 そう、宇佐見さんは“悩める大学生”の代表でもある。

 小、中、高校が昨年夏までに対面授業を再開した中、全国の大学だけが今だにオンラインでの授業を続けている。私の子供も1度目の緊急事態宣言が出された昨春からずっと家にいる。在宅でZOOMを使ってのオンライン授業を受け、パソコンで課題を提出する単調な生活を続けているが、大学側の基本的な方針は後期授業もオンライン。2年生の1年間を、ほぼ在宅で過ごすことになった。

 小、中、高とはケタ違いに広い範囲から通ってくる学生たち、さらに、その行動範囲の広さこそが最大のネック。決してクラスターを出すわけにはいかない大学側が慎重になるのも十分、理解できるが、昨年入学した1年生のほとんどが一度もキャンパスに足を踏み入れたことがなく、サークル活動も味わえず、1人の友人もいない―。そんな話を聞くたび、失われた青春という時間の貴重さを思って、胸が締めつけられる。

 コロナによって押しつけられたステイホーム期間を作品執筆というプラス要因に転じさせて栄冠を勝ち取ったのが、宇佐見さんなのだ。

 「賞はありがたく受け止めつつ、若さやそういったものに振り回されずに、ただ、ひたすら自分の目指すものを書き続けることが結局、賞を受けることの恩返しになるんじゃないかと思います」と決意表明しつつ、「自分の中では小説を書いている時間と小説が発表されて評価される時間は、だいぶ離れています。今は3作目を書いている途中なんです。だから、すごくうれしいなと舞い上がる気持ちもあるんですけど、悪い意味で振り回されないようにしたいと思います」と続けた21歳。

 ある意味、ステイホーム期間を最も有効活用した大学生とも言える新進作家の笑顔を見ながら「全国の悩める大学生に幸あれ」―。私はそれだけを願っていた。(記者コラム・中村 健吾)

 ◆第164回芥川龍之介賞 候補作(掲載誌)

宇佐見りん「推し、燃ゆ」(文藝秋季号)

尾崎世界観「母影」(新潮12月号)

木崎みつ子「コンジュジ」(すばる11月号)

砂川文次「小隊」(文學界9月号)

乗代雄介「旅する練習」(群像12月号)

 ※作者五十音順・敬称略

 ◆芥川賞選考委員

 小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、平野啓一郎、堀江敏幸、松浦寿輝、山田詠美、吉田修一

 ※五十音順・敬称略

受賞作「推し、燃ゆ」を手に芥川賞受賞会見で笑顔を見せる宇佐見りんさん
受賞会見でソーシャルディスタンスを保った形で記念撮影に応じる芥川賞受賞の宇佐見りんさん(右)と直木賞受賞の西條奈加さん
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