スケジュール通りなら93年に西武は勝っていた…「詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間」著者・長谷川晶一氏に聞く【中編】

92年の日本シリーズ第1戦を翌日にひかえた西武・森祇晶監督(左)とヤクルト・野村克也監督(右)
92年の日本シリーズ第1戦を翌日にひかえた西武・森祇晶監督(左)とヤクルト・野村克也監督(右)
「詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間」の書影
「詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間」の書影

 ともに第7戦までもつれた92、93年の西武とヤクルトによる日本シリーズの舞台裏を描いた「詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間」(インプレス・税抜き2000円)の著者・長谷川晶一さん(50)へのインタビュー中編。同書がなぜ野球ファンに“刺さる”のか、その秘密に迫った。(加藤弘士)

 証言者50人。同書では勝負を分けたワンプレーをグラウンド上、ベンチからの様々な「眼」で多角的に、立体的に検証していく。まるで当時にタイムスリップしたかのような臨場感を味わえる。

 「92年第7戦、広沢さんの『お嬢様スライディング』や、93年第4戦の飯田さんのバックホームは、僕の中ではマルチアングルみたいなイメージです。93年ならば、センターの飯田さん、マウンドの川崎さん、打席の鈴木健さん…それぞれの視点から、打球が飯田さんのところに飛ぶ映像も押さえた上で、捕手・古田さん、一塁側ブルペンの高津さん、三塁コーチャーズボックスの伊原さん…飯田さんのバックホームを多角的な“カメラ”で追うように書くというのは意識しましたね」

 日本シリーズがデーゲームで行われていた時代。秋の夕暮れの西武球場や神宮球場の情景が浮かび上がってくる。なぜ今回の本において長谷川さんの文章は、ここまで“匂い立って”くるのだろうか。

 「それは僕があの日、神宮にいたからです。あの14試合で、太陽が眩しかったとか、途中で雨が降ってきたとか、小雨が止んだとか…。93年の第4戦の風が本当に強かったことは、今でも覚えています。野村さんはそれを、ちゃんと試合前に川崎さんと古田さんに念押ししていたと、今回の証言を通じて知りました。取材した方々は皆さん、当時のことを鮮明に覚えていました。それは本当に驚きましたね」

 独特の筆致で描かれる、日本プロ野球最高峰の戦いに臨む男たちの心もよう。人間くさいドラマの数々に魅了されてしまう。

 「野球は…他のスポーツもそうなんですけど、人間がやるものだというのが、僕にはすごくあって。特に野村さんは『野球には間があって、考える時間があるから面白い』とおっしゃっていた。その通りだと思います。皆さんがそれぞれの立場で、いろんなことを考えて、事前に準備をした上で…想定を超えるような瞬間にもパッと本能的な動きで対応したりしていた」

 「これだけの一流の人たちが真剣にやると、全てのプレーが心理戦なんです。それは当時スタンドから見て痛感していました。『何も考えていなかったはずがない』という前提でインタビューしているから、自然と心象風景を描くことになりました」

 証言者50人のうち、古くからの燕党にとってひときわうれしいのはハウエルの回想だろう。どうやってコンタクトをとったのか。

 「コロナ禍でZoomが普及する中、ハウエルが登場するオンラインイベントがあったんです。そこに身分を隠して、いち参加者として入って(笑)。他にも参加者がいるから、本当に聞きたいことは聞けない。後日、主催団体にオファーをしてインタビューを申し込みました。Zoomって背景が変えられるけど、彼は伊藤智仁さんと一緒のお立ち台の画像にしていた。93年6月の試合なんですが、グッときて。ヤクルト時代の応援歌も、覚えていましたね」

 元々は一昨年の秋に刊行される予定だったが、1年延期に。その間、あまりに衝撃的な出来事があった。野村克也さんが昨年2月11日、天国へ旅立った。突然だった。

 「全く想定していませんでした。野村さんの死というものには当然、ふれなきゃいけない。当初の構想とは違うエンディングになりました」

 現在、日本シリーズは全てナイターだ。世代によっては、平日の昼間に行われた熱戦に郷愁をおぼえるかもしれない。試合が長引くと太陽が傾き、秋の夕暮れが浮かぶ情景とともに-。

 「読者の方々からの感想で本当に多かったのは、昼間に学校でラジオを学生服の胸元にしのばせ、イヤホンで授業中に聴いていたとか、小学生だったら視聴覚室で先生と一緒にみんなで見たとか、放課後急いで帰宅して見たとか…みんな、それぞれの見聞きした環境を語り始めるんですよ(笑)」

 歴史的死闘となった背景には「雨」があったことも、再認識できる。

 「2年とも雨天順延があって、第7戦が月曜日になっているんですよ。これは例えば昨秋の日本シリーズなら、全部ドーム球場だから雨天順延はないわけです。雨天順延があったことで、92年は岡林さんが、93年は川崎さんが第7戦で投げられた。ちゃんとスケジュール通りだったら、93年に西武は勝っていたと思います」

 92年第1戦の視聴率は土曜日の昼間にもかかわらず東京地区で28・6%。胸躍る大行事であった分、日本シリーズは「あの頃」の個人的な記憶と妙に結びつく。

 「92年第7戦は延長戦になったんですが、夕暮れ時の岡林さんが西武の胴上げを見つめる場面を、僕は神宮のバックネット裏から眺めていたんです。夕暮れにたたずむ岡林さんは本当に美しかった。今回の一冊では、そういうシーンを描きたかったんですね」

 最後のページを閉じた後、読者は思うことだろう。この一冊を書き上げた長谷川晶一という男は、いったいどのような人生を歩んできたのかと。後編ではその半生に迫る。

92年の日本シリーズ第1戦を翌日にひかえた西武・森祇晶監督(左)とヤクルト・野村克也監督(右)
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