互いに畏怖の念を抱いていた森祇晶と野村克也…「詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間」著者・長谷川晶一氏に聞く【前編】

「詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間」の著者・長谷川晶一さん。取材した50人の濃厚な証言は読み応え十分だ
「詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間」の著者・長谷川晶一さん。取材した50人の濃厚な証言は読み応え十分だ

 ともに第7戦までもつれた92、93年の西武とヤクルトによる日本シリーズの舞台裏を描いたノンフィクションライター・長谷川晶一さん(50)の著書「詰むや、詰まざるや 森・西武vs野村・ヤクルトの2年間」(インプレス・税抜き2000円)が、野球ファンの間で話題を呼んでいる。当時の指揮官だった森祇晶、野村克也両氏を始め、総勢50人の証言で2年間の死闘が再現される濃厚な一冊。384ページに込めた思いを聞いた。(加藤弘士)

 伝説に残る92、93年の日本シリーズ計14試合。長谷川さんは全て現地で観戦している。

 「タイミングが良かったんです。大学3、4年だったんで、時間がある。バイトもしていてお金もあった。プレイガイドに徹夜で並ぶ時間も体力も、気力もある。これが1年ズレて、大学4年と社会人1年目だったら、多分93年のシリーズは見られなかったと思います」

 93年には内定していた出版社の懇談会とかぶってしまったが、迷いなくシリーズ観戦を選んだ。

 「急病だったんで(笑)。ヤクルトファンとしては前年の悔しさもあるから『全部行こう』と。93年は古田さんや広沢さんが開幕から、リーグ優勝ではなく日本シリーズを目指していたと言ってましたけど、僕もそうでした。『今年は絶対シリーズに行って、西武を倒すんだ。そのためにチケットを全部買って、全部行くんだ』と、早い段階から決めていましたね」

 92年のヤクルトは14年ぶりのリーグV。10月1日の時点では3位だったが、混戦を一気にまくって9日後には優勝を決めた。

 「僕が本腰を入れてヤクルトを見始めたのが1980年なんです。その年は2位だったけど、後はずっとBクラス。自分が優勝を見られる日は果たしてくるのだろうかと…。『ずっと優勝しないんじゃないか』という思いがある中での逆転優勝でしたから」

 ヤクルトファン歴40年、自身の50歳イヤーに出版された通算30冊目の書籍は、ライター人生の集大成のような一冊。普通のスポーツノンフィクションに比べて、証言者の数が尋常じゃなく多いように感じられる。

 「これは僕のざっくりした感覚なのですが、一冊本を書き下ろす時って、のべ20人に話を聞くと、ある程度書けるんですよ。たまに時間やネタがない時、15人ぐらいで書こうとすると、結構苦労するんです。今回はその倍以上から聞いているので。捨てるエピソードの方が多かったし、厳選することも含めて贅沢にやらせてもらった本でしたね」

 取材した関係者の数は実に50人に膨らんだ。

 「当初はこれほどの人数になるとは考えていなかったんですが、ただ西武側、ヤクルト側を同人数にしようとは思っていたんです。立場的にも、森さんと野村さん、伊東さんと古田さん…とそれぞれワンテーマのキーワードを作って、対比させようと」

 「後は、僕は数年前から『文春野球』などでヤクルトファンであると知られているので、『長谷川が書く西武とヤクルトの本なら、ヤクルトびいきなんだろうな』と多分思われるだろうと。そこは払拭したいという思いがありました。だから取材する関係者の数は必ず同じ数にしようと。だから『森・西武vs野村・ヤクルトの2年間』という副題は、西武からの表記にしたかった。最初に黄金時代を築いた西武に対するリスペクトもあって、意識したことですね」

 「詰むや詰まざるや」は、1975年に出版された詰将棋の名著として知られる。江戸時代の名人である伊藤宗看作の詰将棋集「将棋無双」と、宗看の弟、伊藤看寿作の「将棋図巧」各100題が収録されている。

 「僕が子供の頃、親父の本棚にこの本があって、自分で詰将棋をやったりしていたんですよ。そして92、93年と球場で見ていた時、真っ先にこのタイトルが浮かんだんです。森監督と野村監督は今、何を考えているんだろうと、将棋を見ている感じだった。30年近く前から、このタイトルは考えていたんです。まさか同じタイミングで“本家”が復刊されるとは…ビックリしました」

 同書の中心で描かれる森、野村の名捕手監督。あらためて感じた2人の凄味は、どんなところだろうか。

 「お互いがお互いをリスペクトしているというのが、心地よかったですね。それぞれ自分に自信がある。一生懸命野球を研究していて、日々野球に対する鍛錬を怠らなかった人たち。結果を残してきたという自負もある」

 「一方で、自分にはないものを相手は持っている、自分には考えつかないことを彼ならやりかねない-という部分が互いにあるから、相手がパッと何かをやった時、『オレならこういう解釈をするけれど、あの人なら違うかもな』と読み合っていたということを、それぞれの発言で再確認できた。そのたびにザワッと来る感覚があって、それが心地よかったんです」

 本の中で、2人の関係を長谷川さんは漢字二文字で表現している。

 「畏怖、という言葉を使っているんですけど、森さんは野村さんに畏怖の念を抱いているし、野村さんから森さんにもある。敬意と畏怖をそれぞれが持っている2人が素敵だったし、かっこいいなと思いましたね」

【中編】につづく

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