天皇杯決勝に出るということ〈1〉…喜熨斗勝史氏コラム「Coach’s EYE」

天皇杯を制した川崎
天皇杯を制した川崎

 国内外のクラブでコーチとして、FW三浦知良のパーソナルコーチとしても経験豊富な喜熨斗(きのし)勝史氏のネット限定コラム「Coach’s EYE」。第10回のテーマは「天皇杯決勝に出るということ〈1〉」。

 2021年1月1日。新国立競技場で行われた天皇杯の決勝(川崎―G大阪)は、2020シーズンの締めくくりであり、21年の始まりの試合だ。結果は1―0で川崎の勝利。川崎の強さが最後まで際立った20年を締めくくった。得点は1点しか入らなかったが、川崎は前半開始直後から何度も決定機を演出し、決めるところを決めていれば、得点差はもっと開いたのかもしれない。

 結局、21年初めの試合も、川崎が他の追随を許さない強さを見せつけて始まった。しかし、来季のスタートまではまだ時間がある。G大阪、C大阪、名古屋、鹿島、柏などの強豪が川崎1強をひっくり返すことができるのだろうか。この試合を見る限り、川崎をひっくり返すのはそう簡単ではなさそうだ。しかし、21年は降格制度も復活し、勝ち点の動きは、昨年のようにはならないはずだ。また、選手の移籍も大きく影響するだろう。打倒川崎を狙うチームは、1か月以上あるプレシーズンで、どこまでチーム改革を進められるかが勝負。まずは来月のゼロックススーパーカップが楽しみだ。

▽責任

 1月1日に行われる天皇杯の決勝だが、やはりこの試合は前年シーズンの締めくくりだ。グラスルーツレベルのチームから予選を戦い、最後まで負けなかったチームが優勝する。まさに国を挙げてのノックアウトゲームである。私も、子供のころから1月1日には必ず国立競技場に足を運び、日本の頂点を決める試合を楽しんだものである。その後、選手としては、参加することのできなかったこの試合だが、プロコーチになって初めて、1月1日の国立競技場のすり鉢の底辺に立った。そしてその時、そこに辿り着くまでの道のりの長さと大変さ、膨大な苦労の量、そして責任の重さを痛感することになる。

 12月に入るとJリーグでは来季の準備が佳境を迎える。選手の移籍や監督やコーチの交代、年俸の提示など、オフザピッチの動きが活発になる。解雇や大幅減俸を通達された選手は、モチベーションを維持するのがとても難しい。心に不満や失望感があれば、それは当然パフォーマンスに直結する。「それもプロの仕事」と一喝してしまえばそれまでだが、家族を支える身になれば、その難しさは想像のつくところだろう。加えて、外国人選手は自国に帰りたい気持ちが大きくなる。特に単身で地球の裏側からきている選手たちは、試合を迎えるにあたり、メンタル面をコントロールするのが非常に難しくなってしまう。私自身、海外にいる時は、日本で待つ家族や犬たちが恋しくてたまらなった。

 人それぞれ、様々な物語がある中、心を一つにして戦い、そして勝ち抜いていく、その難しさは並大抵なものではない。さらにそこには、グラスルーツレベルのチームでプレーする選手たちの思いもある。「プロの事情で集中できません」では申し訳が立たない。普段にもまして、この試合で戦う責任を全うしなければならないのだ。“日本のサッカーに関わる全ての人たちの頂点を決める戦い”という想いを背負ってプレーする覚悟がなければ、ピッチに立つ資格はない。まさに、日本サッカーの目標、という存在になるための自覚と責任がなければ、ここに辿り着くことはできないのだ。別の言葉でいえば、そのプレッシャーに打ち勝った者だけがここに辿り着くことができるのである。

▽最後の試合

 そして、もう一つ、締めくくりの試合が故のエピソードもたくさん存在する。1999年の1月1日を最後に、姿を消した横浜フリューゲルス。負けたらチームの解散になるあの大会で、最後まで勝ち残り、そして優勝して締めくくったあの大会は、今でも伝説の試合として心に残る。当時の選手たちにしか分からない、とてつもなくタフな戦いが、そこにあったに違いない。今年の試合も、川崎の中村憲剛選手にとっては最後の公式戦。「引退後も川崎を離れるつもりはない」と宣言しているが、選手として最後の試合を新国立の決勝で迎えられたのは、さぞかし感慨深かったことだと思う。対戦相手として、試合では常にトラブルを見舞わされ、コテンパンにやっつけられたこともあったが、不思議とそのプレーには納得させられてしまうことが多かった。時の流れを恨むとともに、彼の日本サッカーへの貢献には、感謝の気持ちでいっぱいである。

▽可能性は0ではない

 次回は、そんな締めくくりの試合と他のJリーグの試合との違いを、実体験を元に比べてみたい。準決勝に勝ってから、試合までの流れと試合中、そして終了後まで、時系列に沿って紹介しよう。サッカーに関わっている読者なら、私を含め、来年、その場に立っている可能性は0ではない。是非、将来の参考にしていただければ幸いである。

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