2020年アマ野球で最も心に刺さった試合 継投直後の被弾で優勝を逃した慶大・堀井監督の思いとは

慶大の堀井哲也新監督
慶大の堀井哲也新監督

 ▽東京六大学秋季リーグ最終週2日目(11月8日・神宮)

早 大 001000002-3

慶 大 001100000-2

【早】今西、西垣、山下、徳山、柴田、〇早川―岩本

【慶】森田、小林綾、長谷川、長谷部、増居、関根、木沢、●生井―福井

 今秋の東京六大学リーグは、優勝決定が最後の早慶戦にもつれ込む劇的な展開になった。前週まで慶大6勝2分け、早大5勝3分け。1勝すればVという有利な立場にある慶大だったが、初戦で早大に逆転負けを喫して“逆王手”をかけられた。それでも2回戦は、堀井哲也監督(58)が8回までに7投手を繰り出す執念の継投策を見せ、2―1で9回表2死無走者という状況まで進めた。

 慶大OBの堀井監督は、昨年までJR東日本で采配を振るっていた。一発勝負のトーナメントが基本の社会人野球によって磨かれた決断力が光る投手リレーだった。前日の1回戦で先発した絶対的エース・木沢尚文投手(4年=慶応)を8回の頭からマウンドに送り、逃げ切りのストーリーは完結するかに見えた。

 あと1人。ところが、早大の8番・熊田任洋遊撃手(1年=東邦)に安打を許した。続く打者は、前日に木沢から勝ち越し2ランを放った蛭間拓哉中堅手(2年=浦和学院)。堀井監督は、左打ちの蛭間に対して左腕の生井惇己投手(2年=慶応)をぶつけた。生井は、それまでの9試合のうち7試合に全て締めくくりとして登板し、計10回を自責点1。許した安打も3本だけという素晴らしい数字を残していた。エースに全てを懸けるのか。抑えで起用し続けてきたスペシャリストに任せるのか。指揮官は、最善の一手として交代を告げた。

 わずか1球。その答えは、あまりにも残酷な形で示された。蛭間が思い切り振り抜いた打球は、センター方向へ高く舞い上がりバックスクリーンへ。前日に続く2ランで、試合はひっくり返された。慎重に積み重ねてきた石が、音をたてて崩れていく。生井はマウンドにうずくまり、三塁側の慶大ベンチの選手も、凍り付いたように動けなかった。

 悪夢のようなV逸から1か月が過ぎていた。年内最後の練習が神奈川・横浜市の慶大グラウンドで行われた12月13日、堀井監督に早慶2回戦のことを尋ねた。

 「あの試合は、何回も(ビデオで)見ています。本当は見たくもないんですが、気になった場面をもう一度見てみようと」。早慶戦の後の自身の心の動きをたどるような表情で答えて続けた。「自分は戻って何かを反省するより、経験値としてすり込んでおいて、次にあった時はこうしようと考えるタイプなんですが…」

 JR東日本を率い、2011年の都市対抗野球を優勝した。一方で監督での準優勝が4度。雌雄を決する戦いで敗れた時の悔しさを知っているはずの野球人が「立ち直るまでに1週間かかりました」と明かした。母校で初めて大学野球の指揮を執って経験する最終決戦での敗北には、想像していない重みがあった。

 慶大の外野手で活躍した後、1984年に三菱自動車川崎に入社。現役引退後はマネジャー、コーチを務め、三菱自動車岡崎、JR東日本で采配を振るってきた。卒業から36年。学生とともに過ごす日々は新鮮だった。「社会に出る前の150人ぐらいのメンバーの思いを受け止めなければならない。多様性、若さから感じるエネルギー、学生ならではの純真な気持ち。それらを全身に浴びています」。全員で競争し、全員で試合に向かっていくのが堀井・慶大のスタイルだ。早大を倒して優勝を果たしてこそ、全ての部員の苦労が報われる。社会人時代とは違う責任を背負って早慶戦に臨んでいた。

 エースの木沢を交代させた直後の被弾。勝敗を分けた場面としてクローズアップされるのは当然だろう。しかし、それまでのリレーは、まさに“神采配”だった。4回途中で投入した3番手の長谷川聡太投手(3年=慶応)から木沢につなぐまでの4投手は被安打ゼロ。うち3度の継投がイニングの途中でのものだったが、いずれも難しい局面を切り抜けていた。

 「どこか自分に隙があった。代えた決断がどうこうより、自分の隙だと思う。決断がいい悪いより、何か隙があった。全体にかける言葉だったり、生井への言葉だったり。もちろん、代えない選択もあった。もう少し、いろいろなことを考えてから決めてもよかった」。采配を振るう者として“ゾーン”に入っていたような試合だったからこそ、落とし穴があったのだろうか。

 大学野球の指導者としての最初の一年が終わった。堀井監督は、自身の経験を重ねつつ新たな年へ視線を向けた。「負けた試合は、次の年の同じ機会まで消えない。都市対抗の決勝で負けたら、決勝で勝つまでだめ。リーグ戦で優勝するまで、この気持ちは消えないと思う」。2020年のアマチュア野球で最も強い衝撃を受けた試合には、敗れた監督の執念に導かれた続編がありそうだ。

(記者コラム・浜木 俊介)

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