先月22日のクイーンズ駅伝(全日本実業団対抗女子駅伝)で、各チームのエースが集結する最長区間・3区の区間賞は、積水化学の新谷仁美選手でした。4日の日本選手権1万メートルを日本記録で優勝して東京五輪の代表に内定した彼女ですが、現役復帰の理由を「お金のため」と答えたことが一部で報じられて、知った方も多いかもしれません。
彼女のことは、同じ岡山県出身ということもあり、以前から知っていました。かつては金髪にするなど見た目も性格も、いい悪い両方の意味で目に留まるところがあったと思います。今回の発言に関しても賛否両論がわき起こっていますが、「言い方は別として、意識の持ち方や考え方には共感できるところがある」というのが、私の意見です。
「お金のため」というのは、言い換えれば「生きるため」ということです。一度は引退し、会社員生活を送る中で自らの人生に疑問を感じ、復帰を決めた新谷選手。その“決意の証し”としての言葉だったのではないでしょうか。そして、多くの人に支えられて自分が競技をしていることを踏まえ、その人たちの期待に応えられるように自分をあえて厳しい立場に追い込んで力を出せるようにするための言葉なのだと思います。
新型コロナウイルスの感染拡大で、人と交流する形が変わる中、自分の存在を周囲から忘れられてしまうことに恐怖を感じる人もいるかと思います。「忘れられないようにするには、どうすればいいか」と悩んでいる人もいるでしょう。ただ、大事なのは周囲の目や考えではなく、自分自身がどんな人間で、何をしたいかと考えることではないでしょうか。
新谷選手の言葉も、その気持ちの中から出てきたもの。周囲に振り回されることなく、彼女自身が目指すものに向けて頑張るのを応援したいと思います。(女子マラソン五輪メダリスト)